名実相伴う世界的脅威が差し迫りつつあるミッドガルズは
いつ魔物との戦が開戦されてもおかしくない、緊迫とした日々が続いていた。
「知ってる?今夜流星群が観測できるそうよ」
「今年は万聖節と時期がかぶるなんて…」
「何事も起こらなければいいが…」
ミッドガルズに住まう者達は皆一様に、夜空に織り成す天体が巻き起こすであろう流星火の話題で持ちきりであった。
──空に遍くは流星痕──
「よりによって万聖節に流星群とはな…」
「本当に、何も起こらなければ良いけど…」
街の喧騒に混じって聞こえるは、人々が発する不安を顕にした言葉たち。
ラトレイアは、そこかしこで持ちきりになっている話題に首をかしげた。
「…何故皆一様に不安そうなのかしら」
「ハロウィンに流星観測が重なっても特に問題もないと思いますが…」
ミッドガルズの偵察を済ませたラトレイアとヴァルローダは不思議に思いながらも帰路に着いた。
城に戻り、門番に挨拶を交わしエントランスを抜けるとラトレイアはソーサリスと鉢合う。
「あ!ラトレイアちゃんとヴァルローダ!おかえり~」
仕事を終えたソーサリスは2人の姿を見つけて手招きをする。
「街はどうだった?賑わってた?」
ラトレイア達が城外に出かけていた事を知っていた彼女は、サウィン祭で賑わっているであろう街の様子を尋ねた。
「そうですね…魔除けの焚き火を灯していたり、子供達が仮装していたり賑わっていました」
「子供達は楽しそうでしたけれど、大人達は何かに怯えているようで…」
ヴァルローダが質問に答え、その言葉を締めくくるようにラトレイアは感じたままをソーサリスに語りかける。
「人々は、流星群が気になっているようですよ?」
ラトレイアは、城下で持ちきりになっていた話題をソーサリスに話して聞かせる。
「ああ…なるほどね…」
確かに、今年は時期が重なっているなあと彼女は呟いた。
「…この世界では良く思われていないんですか?流星…」
ヴァルローダは疑問に思っていた事を口に出す。
「『流星』ではなく、『時期』が問題なのよ」
「!」
3人の背後に突然現れた気配。
それは魔族であるジャミルであった。
「これから任務ですか?」
ソーサリスは単独で行動しているジャミルを見て訝しげに訊ねる。
「まあね。
人間達は収穫祭とか諸聖人の祝日の前夜祭とか言ってるけど…
あら、もう行かなくちゃ」
じゃあね、と話を途中で切り上げそそくさと出かけていってしまった。
「急ぎの任務なのでしょうね…」
ラトレイアはそう呟いてジャミルの後姿を見送った。
夜半。
流星群を観賞しようとラトレイアは部屋を抜け出し、1人中庭に降り立った。
ジャミルが去ったあと、時期が問題という理由についてソーサリスに訊ねたところ
『魔女や死霊や聖霊が現世に戻る日に流れ星が観測されるのが不吉なのでは?』ということらしい。
今回流星が観測できる時刻は夜陰にかけて。
だが……
「うーん…残念ね…。この空では…」
──この状態では見られないかもしれないわね…。
防寒着代わりのストールを纏い直しラトレイアはため息を漏らした。
天候が回復するのを待って、しばらく庭に腰を下ろしていたが一向に雲影が晴れる気配はない。
「……」
「…部屋に戻らぬのか…?」
「!」
背後に感じる息差し。
夜気にさらされ冷え切った己をふわりとマントが包み込む。
「ダオス様…?」
「このような時分にどうしたのだ?」
彼の人の腕の中に包まれたラトレイアはいくばくか身じろぎ、ダオスを見上げた。
「夜空を眺めていました」
「夜空を…?」
空一面を覆いつくすかのような雲合いを見やり、ダオスは目線をラトレイアに戻した。
「はい。今晩は流星群が見れるそうなので眺めていたのですけれど…
この空模様では諦めざるを得ないですね…」
そう言いラトレイアは心底残念そうに呟く。
「……」
ダオスは些か思案した後、ラトレイアを抱きかかえたまま空へと上った。
みるみると高度は上がり、眼下には先程まで見上げていた雲が、まるで絨毯のように果てなく敷き詰められている。
「…虚空であれば、諦めることもない」
そう呟きダオスは雲上に広がる星空を眺めた。
スッ…と、星が流れたかと思えば光が尾を引きながら、重力に引き寄せられるかのように雲海の果てに消えていく。
それが合図かのように次々と流れ行く流星雨。
「…綺麗…」
星々が織り成す天体ショー。
幾千・幾万もの火球。
果てしなく広がる星空、流れ落ちる軌跡。
それは、この世と霊界を隔てる門が開き、聖霊達が現世へ降り立つ姿とも思えるほど。
「…数多の聖霊達が地上に向かっているみたい…」
うっとりとした眼差しで、ラトレイアはダオスの腕の中で時間も忘れて光の軌跡を眺めた。
携帯サイト初出日:2009年10月30日 了
修正:2024年7月7日
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