常しえの思い 第五話 ~considerazione~

アセリアへ来てから3日目。
ラトレイア達は、大樹の元へと辿り着いた。

けれども大樹は、だいぶ衰弱していた。

ユグドラシル──…精霊の源・魔力の源であるマナを生み出す世界樹。

世界が誕生した創世紀から大地に根付き、世界中のマナを生成している。

~considerazione~

大樹自体、存続を維持するために少量のマナを必要とする。
そのため、マナが枯渇すると大樹は枯れてしまうのだが…

今、ラトレイアの目前にある大樹の様子を見る限りでは、マナの枯渇状況は深刻な事態に陥っているようである。
「…一体、どうしてこれほどまでに…?」
ラトレイアは大樹の衰弱ぶりに悲しみで胸が一杯になった。
マナは、そうそう枯渇したりするものでは無い。
たとえ、魔術が行使されていたとしてもである。
この様子では、マーテルも地上に現れる事は不可能だろう。
彼女の気配すら感じ取る事が出来ない。
「……魔科学だ」
途方に暮れているラトレイアにダオスはそう告げた。
「魔科学…?それは一体…?」
初めて耳にした言葉にラトレイアは後ろを振り返った。
「魔科学とは魔術と同じくマナを糧として行使する技術。機械の力で、人間でも魔術を使えるようになる…
だが、魔科学には魔術以上にマナを消費するという重大な欠陥がある。
その魔科学を、ミッドガルズが兵器利用しようとしているのだ…」
「魔科学…兵器利用…」
ミッドガルズという国は手に余る力に溺れ、破滅へと歩むつもりなのだろうか…。

なんて愚かな事だろう。
世界が存続するにも、マナは必要不可欠だというのに。
ラトレイアはこの事実に愕然とした。
「だから、ミッドガルズ大陸周辺は一様にマナが希薄だったんですね…」
思った以上に事態は悪化している事にラトレイアは、この世界へ転移した初日、全く力がコントロール出来なかった訳を理解した。
日も経っていないため現在もマナを行使したり空を飛ぶこともままならない。
ラトレイアは唇を噛み締め、ユグドラシルに手を添え今の状態では何も出来ない不甲斐ない自分を悔やんだ。
───大樹を癒やすほどにはならないかもしれない。
けれど、自分のマナを少しでもユグドラシルに…
そう思いラトレイアは手先に意識を集中させて、自分のマナをユグドラシルに注ぎ込んだ。
ふと、ダオスを見れば、同じようにユグドラシルにマナを注ぎ込んでいる。
マナを注ぎ込んだあと、名残を惜しみつつダオスは空間転移を使いラトレイアとヴァルを連れて城へと戻って行った。

客室に戻ってきてからラトレイアは、どうすれば魔科学の脅威からユグドラシルを守れるかを模索していきたいと思い立った。
だが、世界樹の幾重にも連なる時間軸の枝葉には極力負担をかけないようにしなくてはいけない。
なぜならばラトレイアとヴァルは異世界からきているのだから。

本来この世界には存在していないはずのラトレイア達。

多大な干渉をすると、ユグドラシルに負担を強いる事になってしまう。
それだけは避けなければならない。
「──…まだ体調も回復していないから、すぐに行動に移せそうにないわ…。
明日、ダオス様にお目通りして、滞在期間延長をお願いしてみましょう」
「思いのほか、大樹の状況は良くないですからね…。
世界樹の時の枝葉をむやみに広げる訳にもいかないので、慎重にならざるをえませんね」
ラトレイアとヴァルローダは大樹の視察からそう結論を出し、明日に備えて早々に各自の部屋へと戻って行った。

翌日。

太陽が南天にさしかかろうという頃。
ラトレイアとヴァルローダは、ダオスにお目通りするために城内を歩いていた。
会議室についたものの、彼の人の姿は見えなかったので会議室よりさらに上の階にある謁見の間へと向かい、内謁のために訪れた事を謁見の間へと続く廊下の道中でダオスガードの任に就いているイーヴルロードに説明し、取り次ぎを願い出た。
しばらく待ったあと、入室許可をもらい、ラトレイア達はダオスに伺いをたてた。
「おはようございますダオス様。
昨日は大樹の視察に同行させて頂き誠にありがとうございました」
「ラトレイアか…。おはよう。
大樹の衰弱ぶりに愕然としただろう…?」
「…はい。思っていた以上に事態は深刻な状況で…」
「ミッドガルズの魔科学製造実験により、マナ消費速度が大樹のマナ生成速度をはるかに上回っている。
このままでは完全に枯渇するのも時間の問題であろうな…」
「そうなんですか…。なんとか対策をとらないといけない状態なんですね…」
深刻な事態だというのに、今はまだマナに馴染んでいないため大した対策が講じられない自分にラトレイアは歯痒い思いをつのらせた。
「ミッドガルズには再三再四警告しているのだが、魔科学が完成すればと楽観しているのだろう。
実に愚かな事だ」
──睨み合いが続いている、といった状況なのだろう。
ラトレイアはそう悟った。
「あの…ダオス様」
「…何だ?」
ラトレイアは一晩中考えていた滞在期間について尋ねる事にした。
「しばらくの間、こちらに滞在延長をお願いしても宜しいでしょうか?
勿論、ダオス様のお邪魔はいたしません。
…時々、大樹の様子を見に外出はするかもしれませんが…」
申し訳無さそうにラトレイアは尋ねた。
「…好きなだけ滞在すると良いとはじめに言ってある。気に病む必要は無い」
そう言ってダオスは穏やかに微笑みを浮かべた。
「は、はい。ありがとうございます」
「お心遣い、恐縮に存じます」
ラトレイア達は、ダオスの心遣いに恭しく頭を下げた。

アセリアに来て4日目。
ラトレイア達は思いも新たに、マナ枯渇を防ぐ為、ダオス城に滞在する事となった。

携帯サイト初出:2008.9/28 了

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