この世界に来てから2日目。私は大まかにではあるがアセリアについて知る事が出来た。
今年は『アセリア暦4201年』であるという事。
そして、この城のある場所はミッドガルズ大陸の北東部そばの島で、この島は大陸北東部にある橋と繋がっている事。
城から見える雪原はヴァルハラ平原といい、草原が広がっており平原を越えた先には『ミッドガルズ』という軍事国家があるという事を…
~investigation~
「ミッドガルズ周辺は一様にマナが薄い。」
ラトレイアは今、今日は非番だというイーヴルロードにこの世界について教えて貰っていた。
ヴァルは別行動で城内を散策している。
「この世界で一番マナが希薄な地域と言えるな。」
「なぜミッドガルズ周辺が一番希薄なの?」
力をコントロール出来なくなるくらい希薄だったマナ。なぜこの周辺が一番薄いのか。
ラトレイアは思いきって尋ねてみた。
「すまないが…その件に関しては私から詳しくは言えない。」
どうやら機密事項が多いのか、詳細な回答は得られなかったラトレイアだが、
まあ、最初から全て分かったら苦労はしないよね。自分で調べるようにしよう…と思い直し
「うん、分かった。言いにくい事を聞いてすみませんでした。」
素直に謝った。
「いや、かまわん。
それで…大樹のある場所だが…」
そう言ってイーヴルロードは世界地図を机に広げ、説明を続けた。
「現在地はここだ。ミッドガルズ大陸北東部。」
コツンと、マップに目印を立てる。
「そして、大樹があるのはここ。南ユークリッド大陸にあるベルアダムという村の近くにある森だ。」
コツン…と、更に目印を立てる。
地図を見てみると、現在地からかなり離れた所にあるのが分かった。
「うわあ……結構遠い所にあるんですね。」
ラトレイアは説明を受けながら、己の能力行使可能範囲を分析。
今はまだ、この世界と同調しきれていないから空を飛んで行くのは難しい…。同様の理由で、空間転移も無理だろう。
ヴァルに連れて行ってもらうにも……。としばし逡巡。
「あ、質問なんだけど…」
「?なんだ?」
「この世界でドラゴンは崇拝の対象ですか?例えば、神殿があったりとか。」
この世界では人類の脅威なのかどうかを知っておきたかったラトレイアは尋ね。
脅威の存在とされているのであれば不用意に竜の姿を見せてしまうと攻撃を受ける確率は極めて高い。
(…まあ、ここに来た時は非常事態だったからヴァルは竜の姿のままで降り立ったけど。広場に集まっていた人達を見たら沢山の種族が共存していたから良かった。)
「…そうだな…崇拝対象では無いな。むしろ魔物として目されている。」
…今確認しておいて本当に良かった…!
この世界ではヴァルの竜の姿は人目には顕現させない方が良いわね。
そうラトレイアは結論付けた。
「ラトレイアはヘルマスターか何かなのか?ドラゴンを従えているが…
それとも、お前もドラゴンなのか?」
今度は逆にイーヴルロードが質問した。
ヘルマスター。この世界では、悪魔との契約により魔界より悪魔を自由に召喚する事が出来る力を持った魔術師達の総称らしい。
『ヘルマスターか何か』の『何か』に、あてはまるような点はラトレイアには無い。
「うーん…何て言えば分かりやすいかな…。
私は一応、魔法剣士…つまり、魔法も使える剣士なんです。勿論、ドラゴンでもありません。」
「そうか…。さしずめ、ドラゴンマスター兼魔法剣士といった所か。」
「うん、そんな感じ。」
(厳密に言うと、魔法剣士以外にも役割を司っているのもあるけどね…。)
時間転移含め次元転移や空間転移も出来るしね。一つのカテゴリーの中には収まらないだろう。
「話を戻すが、大樹がある場所は地図を見て分かるようにここからはかなり離れている。
通常であれば、大陸を縦断してフレイランドまで行き、船を乗り継ぎして行く事になるな。」
地図に行程を指し示しながらイーヴルロードは説明を続ける。
地図から距離を目測してみると、船に乗るまで何日もかかりそうだ。
「だが…ラトレイア、明日はダオス様と共に行くのだから船に乗る必要も無い。
ダオス様について行けばすぐに着くだろう。」
「?」
船に乗る必要が無い?
イーヴルロードのその言葉にラトレイアは首を傾げた。
「明日になれば分かる。
さて、私が教えられるのはこれぐらいだな。」
そう言ってイーヴルロードは部屋から退室しようと席を立った。
「ありがとう。とても助かりました。」
ラトレイアはイーヴルロードに感謝を述べて、退室する彼を見送った。
窓から外を見れば、日は高くなっている。太陽の角度から察するとどうやら今はお昼過ぎくらいだろう。
「さてと…。」
明日まで時間はまだまだある。
「私も、城内を散策しようかな。」
そのうち、ヴァルと合流出来るだろう。
城の中は静寂に包まれていた。
様々な種族が共に暮らしているとは思えない程の静かさである。
1人廊下を歩いてゆく。コツコツと自身の足音が廊下に響いた。
(それにしても…本当に静かだかなあ…。あれだけの人達が暮らしているのが嘘のよう…。)
1人物思いにふけりながら歩いていると、エントランスホールに出た。
エントランスホールや廊下には甲冑や石像などが装飾されている。
(格調高い内装だな…。
でも、昨日一通り案内してもらった時も思ったけど、窓は少ない方だな…。)
色々観察しながら歩いて行くと、会議室に辿り着いていた。
(あれ?誰も居ない。ヴァルも居ないな…。通ったルートには居なかったから別の所かな…それともこの上…?)
ラトレイアは会議室の奥にある階段へと向かい、更に上の階へと進んだ。
入り組んだ構造の城内を歩いているうちに、だんだんと方向感覚が狂ってきた気がした。
「うーん…ここまで来て合流出来ないとなると、すれ違ってしまったかしら。もう部屋に戻ろうかな…。」
ラトレイアは小さく呟き、今来た道を戻ろうとした。
その時である。
「…どうしたのだ?」
ちょうど近くを通りかかったダオスは、ラトレイアを見掛けて声をかけたのだった。
「…ダオス様。」
ラトレイアは、ダオス様の元へ歩み寄った。
「昨晩は良く眠れたか?」
「はい、おかげ様で良く眠れました。
お気遣い誠に感謝致します。」
「このような場所でどうしたのだ?供も居ないようだが…」
ダオスは疑問に思った事を述べた。
まだ不案内にもかかわらず一人で城内を散策していたのだから疑問に思うのが当たり前かもしれない。
ラトレイアは、忙しいであろう彼の手を煩わさせてしまったことを申し訳なく思い理由を述べる。
「はい…実は…城内を散策していて道に迷ってしまったみたいで…。」
「供の者とはぐれたのか?」
「いえ、今日は別行動をとっておりまして。」
ラトレイアは、先程までこの世界の事をイーヴルロードに教えてもらっていた事、その後、城内散策中のヴァルと合流しようと部屋を出て散策を始めた事。
今に至る経緯をかいつまんで話した。
「…なるほど…。この城の構造は入り組んでいるからな。致し方あるまい。」
城は本来、敵の侵入を防ぐために築いた堅固な建物である。世界は違えど、城の存在概念はあまり差違は無いらしい。やはり対策も兼ねて入り組んでいるのだろう。
「ここから部屋まで戻るのは大変であろう。」
ついて来い…
そう言って、ダオスは歩き出した。
「お手数をおかけしてしまい本当に申し訳ありませんでした。
次からは迷わない様気をつけます。」
ラトレイアは深く頭を下げた。
間借りしている部屋まで送り届けてもらってしまったためである。
「良い、気にするな。
…ラトレイア、明日の事だが…」
「はい、明日はユグドラシルの元へ行かれるのですよね?
お供させて頂きます。」
昨日提案されたユグドラシルの視察。同行させて頂ける事になっている件の詳細だろうか。
イーヴルロードには『明日になれば分かる」と言われているけれど、明日はどうやって行くのだろう。
「うむ。明朝10時に城を立つ予定でいる。」
「明朝10時ですね。では、その時刻までにエントランスホールに向かいます。」
「うむ。…ではな。」
そう言って、ダオスは来た道を戻っていった。
(…あれ?今思ったけど、ダオス様はどこかへお出掛けになられる所だったのかしら…?もしそうだったのであれば、申し訳無い事を……)
部屋に入り、窓から外の景色を見ると、日は傾き日没が近い事が伺えた。
(明日……お詫び申し上げなければ…)
先程までのやり取りを思い返しながらラトレイアはふと気づく。
(そういえば…。明日はどうやって行くのか分からなかったけど…。)
明日になれば分かる事なので、あまり深くは考え無いようにしよう。
日没をむかえた頃にヴァルは滞在している部屋へ戻って来た。
どうやら今まで城内を隅々まで散策してこの城に住む魔術師達や魔物などにアセリアについて色々と聞いて情報を集めていたらしい。ラトレイアが合流出来なかったのは、タイミングが合わなかったためのようだ。
早速二人はお互いに得た情報を報告しあった。
ヴァルの話により、ダオスは大樹とマナを気にかけているが、城に住む魔物達はマナを気にかけてはいない。
住人には魔族もいる。
魔族にとってマナは体を病まし、朽ちさせる忌まわしき力としている。
しかし…ソーサリスなど、魔術を行使するもの達はマナを気にかけてはいるみたいであるという事が分かってきた。
それもそうだろう。魔術行使に必要なマナが枯渇してしまうと、術は使えなくなってしまうのだから。
「うーん…城の主はマナと大樹を気にかけているけれども、住人の中ではあまり重要視されていない…といったところなのかしら。」
「そうですね。まだここへ来て2日目ですから断言は出来ませんが。」
情報を集めてきたヴァルはそう言って報告を終わらせた。
幸いな事に、この城に滞在させて貰える事になっている。
明日はユグドラシルの元へ同行させて貰える事にもなっている。
まだ結論を急ぐ事も無いだろう。
「そうね…。明日、大樹の具合を見て、どのような状況なのか確認しない事には状況の具合も分からないし…。
あら、だいぶ話こんでしまったわね。明日は朝10時に城を立つとダオス様に伺ったので、それまでにエントランスホールへ行く事になったから、そろそろおひらきにしましょう。」
そう言って、二人はお互いの報告を切り上げ、ヴァルは割り当てられた部屋へ戻っていった。
翌朝。
10時にエントランスホールでダオス様をお迎えするために、私達は早めに自室を出る事にした。
昨日一昨日と一通り城内を散策して判明したのだけれども、この城は5階建てで、私達の部屋は3階にある。
会議室も3階にあるが、私達が滞在させていただいている棟とは別棟にあることが分かった。
昨日は複雑な構造のために迷ってしまったけれども、今は迷う事もなくエントランスホールへの道を進んでいる。
「…昨日も思ったけれど…。お城なだけあって、かなりの広さよね…。
構造も複雑だし…。」
今日は迷う事なく向かえて私は安堵の胸をなで下ろした。
そうこうしているうちに、ラトレイア達はエントランスホールへとたどり着いた。
まだホールにいるのはラトレイアとヴァルローダの二人だけ。
どうやら無事、ダオス様がホールに着く前にたどり着けたみたいであった。
太陽の高さを見る限りでは、まだ予定の時間よりは早いようだ。
しばらくホールで外の景色を眺めていると、階段のあたりがにわかにあわただしくなった。
ホールに面している踊場を見やると、ダオス様とイーヴルロードが何やら論じているようだ。
「…引き続きミッドガルズの動向を監視するように。」
「かしこまりました。では、私はこれにて失礼致します。
いってらっしゃいませ、ダオス様。」
そう言ってイーヴルロードは持ち場へと戻って行った。
「おはようございますダオス様。」
どうやら議論も終わったようなので、私はダオス様のもとへと歩み寄った。
「おはよう。
…どうやら待たせてしまったようだな。」
「いえ、私達も先程着いた所ですので。
こちらこそ、お忙しい所にすみません。お気遣い痛み入ります。」
忙しい中、大樹の視察に同行させて頂く事にラトレイアは感謝を述べた。
「そうか…。」
「はい。…ところで、ダオス様。お伺いしたい事があるのですが宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
ラトレイアは、昨日イーヴルロードから『明日になれば分かる』と聞いて、気になっていた事を聞く事にしたのだった。
これから、どうやって精霊の森まで行かれるのですか?
通常であれば大陸を縦断して船を乗り継ぐ行程ほどの距離と伺いましたが…。」
昨日世界地図を見せてもらった時に目測してみたら、ここからかなりの距離があることは分かっている。
『船に乗る必要が無い』という点も気になる。
空を飛んで行くのだろうか。それでもかなりの距離である。
今の状態ではラトレイアは空を飛ぶこともままならず、ましてやこの世界では脅威とされているドラゴンであるヴァルに竜の形態で連れて行ってもらうわけにもいかない。
どうしたものか……
ラトレイアが考えあぐねていると…
「心配はいらぬ。船に乗る事も無く、空を飛ぶ事も無く行く事が出来る。
…次元転移を行える貴女達であればな。」
そう言って、ダオスは彼女等を見やり。
その後ラトレイアの手をひき、そして抱きかかえた。
すると…ラトレイア達周辺の空間が収縮・膨張を始めそれを見たヴァルローダも慌てて己の主に近くに寄った刹那……
次元転移特有の、亜空間の中に居た。
ラトレイアは、この世界に自分達以外にも時空を超越出来る存在がいた事に驚いた。
しかも、滞在先の主が次元転移という特技を持っていたのである。
ラトレイアは転移の間、一人思慮を巡らせていた。
そして、次の瞬間。
彼女達の目の前にあるその景色はー
木々に囲まれた穏やかな森。
その森の奥…ひらけた所に、ひときわ大きな樹があった。
その樹からは、ごく僅かではあるがマナを感じとる事が出来る。
マナが微量のため、だいぶ衰えているようだ…。
見た目的には周りの木々と変わりは無いように見えるが…。
まさか──…これが…
「これが、この世界にある大樹だ……。」
ラトレイアの予想を肯定するかのように、ダオスはそう告げたのであった。
携帯サイト初出:2008’2/13 了
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