─sleeplessness syndrome─

いつもの悪夢にさいなまれる。
夢魔に魅入られたかのように。

それは、毎夜のこと。

─sleeplessness syndrome─

「……う…………う…」
真夜中。

ラトレイアは悪夢にうなされていた。
「う…フェアガンゲンハイトが…」
次第にラトレイアの寝顔に苦悶の表情がにじみ、そして…

「…!……はあ…まただ」
肩で荒く息をしながら、ラトレイアは目を覚ました。

このところ、毎晩同じ悪夢をみる。
「マスター…大丈夫ですか?もう1週間はうなされているみたいですが…」
隣室にいるヴァルローダは、ラトレイアの気配に異変を感じ、様子を伺いに来ていた。

「あ…。ごめんね、ヴァル。起こしちゃった?」
「いえ、私よりマスターの方が心配です。
マスター、最近ちゃんと眠れてないんじゃないですか?」

鋭い問いに一瞬口ごもったラトレイアは観念したかのように
「…あの時の光景の夢を見てね…」
悪夢の内容でもある原因を口にした。

「…そうですか…。あの時の…」
ヴァルローダは、あの時…フェアガンゲンハイトでの悪夢のような出来事を思い出し口を閉ざした。

「寝ても、同じ夢ばかり見てね…。
滅びの時まで…夢に出る…」
ラトレイアは、深くため息をついた。

「それでもマスター、ゆっくりと休んで下さいね?」
そう言ってヴァルローダは、できたてのカモミールティーをラトレイアに手渡し、部屋へと戻っていった。

「…休んで下さい…か…」
あまりヴァルローダに心配かけるわけにもいかない。

カモミールティーを飲み干し、ラトレイアは眠りについた。

次の日の夜。

ラトレイアはこの日も同じ悪夢を見た。

「眠れない…」
部屋を抜け出しラトレイアは城のエントランスホール付近まで散歩に出掛けた。

真夜中のため、住人に迷惑をかけないように物音をたてずにひたすら歩き、気がつけばエントランスに辿り着いていた。

外に出て、星を眺めるためラトレイアは庭に腰を下ろした。

「いつも思うけど…綺麗な夜空…」
しばらくそうして夜空を見上げていると
「─―眠らないのか…?」
と声をかけられた。
驚いて振り返ると、エントランスにダオスがいた。

「…ダオス様…。
すみません、起こしてしまいましたか?」

物音をたてないように気を付けていたのにもかかわらず、誰かを起こしてしまった。しかもそれはダオスだった。

ラトレイアは申し訳なさそうに頭を下げた。
「良い。気に病む事はない」
そう言うや否やダオスは
「夜は冷える」
と、ラトレイアにマントを被せながら隣に腰掛けた。

「ここのところ、あまり眠っていないのではないか?」
不意に、ダオスが口を開いた。

「…そう見えますか?」
「ああ」

――ただでさえ大樹の視察などで何かと忙しいダオス様にお気遣いいただくなんて…。

ラトレイアは至らない自分に落ち込んだ。

「…そうですね…。ここ1週間ほど、良く眠れていないのは事実です。
…ご心配をおかけして申し訳ありません…」
ダオスは黙然としたまま、ラトレイアの話を聞いている。

「…夢を…見るんです」
「…夢?」
「はい。毎晩同じ夢ばかり。故郷の夢を…」
「……」
故郷と聞いて、ダオスは自身の故郷、デリス=カーラーンを思い浮かべた。

 滅びの時が近い故郷、デリス=カーラーン。
大いなる実りを待ちわびている、10億の民。

惑星転移の秘術を使い、様々な世界を渡り歩いた。
最後に辿り着いたこの世界でようやく大樹カーラーンと同様の存在に辿り着いたは良いが、ミッドガルズの推し進める魔科学製造実験のあおりをくらい、大樹は死にかけている。
私は、大いなる実りを故郷に持ち帰る事が出来るのだろうか。

暗愁がダオスの心を翳って行った。

「実は…私の故郷は、すでに滅んでいるんです」
訥訥とラトレイアは語りだした。
「フェアガンゲンハイトは、世界の荒廃が元で…。
人々は手に余る力に溺れ、滅んだのです。
今のこの世界の状況は、故郷と若干似ている感じがします」
「……」
「だから…なんでしょうね…。故郷が滅んだ時の情景を毎晩夢に見るのは」
そう言い終えてラトレイアは膝を抱え、顔をうずめた。

「すまない。古傷をえぐるような話を」
「い、いえ!私が勝手に話し出しただけですのでお気になさらないで下さい!」
ラトレイアはあわてて顔を上げた。
「でも、聞いていただいたおかげで、気持ちが軽くなりました。ありがとうございます」
そう言ってラトレイアは儚げに微笑んだ。
「――あまり無理はするな」
ダオスは、なぐさめるかのようにラトレイアを優しく抱きしめ、指で彼女の長い髪を梳ずった。

 しばらく無言のまま、髪を梳いていたダオスだったが、気持ちも落ち着いたのかラトレイアが自分にもたれかかってきた。
どうやら眠りに落ちたようだ。

ダオスはラトレイアを起こさないように気を付けながら抱き上げ、庭をあとにした。

客間に辿り着いたダオスはラトレイアをベッドに運ぶ。
「…おやすみ。良い夢を…」
ラトレイアが起きないようにそっと呟き、手を握り口付けを落とすと部屋をあとにした。

 自室へと戻る道すがら
「…悪夢…か」
故郷の悪夢をよく見るというラトレイアに自分を重ね、ダオスは独白をこぼした。

 翌朝。

朝日の眩しさに目を覚ましたラトレイアは、いつの間にか部屋に戻っているのに気付き、おおいに慌てたのは言うまでもなかった。

携帯サイト初出:2008年10月3日 了.

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