瞳に映るもの──檻の中の世界──

「……よいな、サラ」
──天界。
上層部の中でも更に位の高い熾天使からサラに密命が下った。

「…御意」
彼女は恭しく頭を垂れ跪きかしずく。

「これは、吾が君から直々の勅命である。
これより貴下はセラフィムの任より離れ、件の使命を遂行するように」
「このサラ、確かに任務を承りました。
 …御前、失礼します」
サラは、先ほどまで同僚であった目の前にいるセラフィムに別れを告げると、天界に降りるため…そして、マナの源でもある世界樹の視察の為、至高天を後にした。

「…天界か…」
己の事を快く思わない者もいるだろう…

サラはそう思案しながらも、彼の地へと向かう。
天界へ降りて真っ先に世界樹の元へと足を運んだ。

「…?」
──世界樹の元には、管理者が居たはずだが…?

以前訪れた時には、管理者と名乗る男がいた。
「…確か、クラトスと言ったかしら…」
言葉数少ない、寡黙な…だが、任務はしっかりと完遂する、そんな雰囲気のある男。
「…何かあったのか?」
だが、ここに居ない者の事をあれこれ考えても詮無い事だとかぶりを振り、サラは大樹に手を添える。

「…だいぶ衰弱しているわね…」
下界では、大陸全土を巻き込んだ、マナを巡る争いが絶えないという。

「愚かな事だ…」

サラはため息をひとつつくと、添えた手を離しユグドラシルの根元へと腰を下ろした。

どのくらいの間、そうしていただろうか…。
「…珍しい事もあるものだな」

どうやら、下界…ダイランティアから天界へと繋がる道が開き、人間界・天界・魔界に跨るようにそびえ立つ世界樹の元へ誰か来たらしい。

大樹の根元でぼんやりとしていたサラは、声の主へと目線をやる。

「…リヒターか。…私が居てはおかしいかしら?」
そう問いかけ彼女は立ち上がると、衣服についた落ち葉を払い落とした。

「…ふん…」
リヒターは質問には答えず、真っ直ぐに彼女を見つめる。

 そんな彼を横目で眺め、サラはもう一人この場に居ることにようやく気が付いた。

「…ところで、リヒターの後ろにいるの、誰?見かけない顔ね」
訝しげに眉根を寄せ、サラは青く長い髪、いかつい体つきの男に目を向ける。
それに答えるかのようにリヒターはそのガッシリとした体躯の男に向き直り
「こいつか…?ああ…これから天界に所在を置くようになる奴だ」
と簡潔にサラに紹介したのだった。
「…人間?」
男の気配を探るようにサラは目の前にいるその人物を見据えた。
「なんだ貴様は…?」
筋骨隆々とした男は、サラに対して邪険な態度を取る。
今にも掴みかかりそうな勢いであった。

「バルバトス、これから天界人となるのだから彼女にそう邪険な態度を取るな」
「…そう、バルバトスと言うの?
私はサラ。以後お見知り置きを」
サラは、バルバトスの更に上をいく、冷めた視線でその男を睥睨する。
「リヒターと同じく、天界人よ」
「天界人がなぜここに居るのだ」
バルバトスはサラに負けじと態度を覆さない。

「愚かな争いの憂き目にあっている世界樹の状態を見ていただけよ。
 ところでリヒター。なぜ人間を天界へ?」
バルバトスの問いに素っ気なく答えたのち、サラは得体の知れない男を引き連れているリヒターに問い掛ける。

「…ダオスに奴を紹介する約束をしたのでな…」
「…………へ?」
意外な言葉、そして意外な名前にサラは思わず目を丸くした。

(携帯サイト初出日:2009年9月9日 了)
加筆修正:2024年7月14日

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