瞳に映るもの──月光──

「今宵の月は闇に映えて一段と綺麗だこと…」
サラは空に舞いながら、望月が織り成す夜空に感嘆の息をこぼす。
「さすがは明月、といった所ね」
うんうんと頷きながら、しみじみとした面持ちで月明かりを浴びながらダイランティアに降り立つ。

 行き先は大樹ユグドラシルのある精霊闘技島。

満月による月の魔力の増大に伴い、世界樹にもその恩恵がもたらされているかを確認するためにサラはこの地へ赴いたのだが…。

「あまり効果はないようね」
ユグドラシルの状態を見るや否や、彼女は深くため息をついた。

──それだけ、マナの枯渇状況は深刻といったところか。
サラはかぶりをふると、己に内在するマナを大樹に分け与える。

それが終わると、目的は果たしたと言わんばかりに天界へと戻っていった。

 天界に帰還し、サラはまた月を眺める。
「この時期の名月は殊更に素晴らしい…」
ダイランティアで見る月も、天界で見る月も。
どちらも甲乙つけがたい。

月が良く見えるこの場所はサラお気に入りの場所。
この辺りには天界人もあまり近寄らない。
眼帯を外し、久方振りに両の目で月を愛でる。

しばらくの間、月光と静寂の中に心を委ねていたサラだったが、それを遮るかのように近くでつんざくような爆音がおこった。

にわかに聞こえる怒声。
そして…
「ジェノサイドブレイバアアァア!!」
声がしたかと思えば、大気を揺るがすような衝撃波の余波が巻き起こった。

「…ちっ」
サラは月見を邪魔され、煩わしそうにそれを避ける。

声の主は一体何をしているのか…?

彼女は眼帯をつけるのも忘れてその場へと足を運んだ。

 そこにあるのは問題の主と、衝撃波に巻き込まれたのか、皆一様に気を失っている下級天使達。
「ぶるああああぁぁぁあああ!!」
当人は未だに暴れ足りないらしく、雄叫びをあげていた。

──…本っ当に暑苦しい…。
風流もあったもんじゃない、とサラは軽くため息をこぼすと、
その人物の背後に回り
「何やってるのさバルバトス…。
暴れるのもいい加減にしてくれる?」
少しばかりの怒気を込め、バルバトスの動きを封じるかのように声をかけた。

「せっかくの名月が台無しじゃないか」
両目でサラに見据えられ、バルバトスは一旦動きを止める。
「貴様は…サラか…?」
彼女が眼帯を外している所を初めて見たバルバトスは訝しげにサラを見つめた。

「…何?」
「いや…なんでもねえ…」
サラに冷たく見下ろされ、バルバトスは月明かりに映える彼女に目を奪われた。

それに反し、急に大人しくなったバルバトスを見てサラは珍しいものを見たかのような気持ちになった。

「……まあいいわ。
今晩は仲秋の名月なのだから、貴方も月を愛でてみたら?
 風流を解する事ぐらいできるでしょう?」
「…ふん。貴様がそう言うなら今日は大人しくしていよう」
今日の俺は紳士的だ。

そう言いバルバトスは夜空を見上げた。

 ──月明かりの下で、君は一体何を思う?──


携帯サイト初出日:2009年10月4日 了
修正:2024年7月18日

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