「…どうも」
ソルディースは眼前にいる少年に軽く会釈する。
すると少年は屈託のない笑顔でソルディースに話しかけた。
「君、見ない顔だけど新しく来たエインフェリアかい?」
フレイに連れられてるのは珍しいね。
そう言いながらソルディースの隣に腰を据えた。
屈託のない笑顔で少年は尚も話を続ける。
「フレイは普段執務で中々ヴァルハラから出ないからさ。
兵士も一緒だったけど君、何かしたのかい?」
少年は物珍しそうにソルディースを見詰めた。
「…別に何も。ただ景色を見ていたらああなっただけ。
それと私はエインフェリアではないわ」
ソルディースは顔色一つ変えずに淡々と質問に答えた。
その反応に少し面食らったのか少年は数秒、ソルディースを見詰める。
そして興味深げに彼女を見やった。
「……へえ…?
フレイも珍しい事をするものだね…」
少年は愉快そうに笑むと
「手荒な行動をとるなんて、余程慌てていたのだろうか」
くつくつと喉を鳴らし、彼女を初めて見たときの身形を改めて思い返すと目を細める。
それを見てソルディースは顔をしかめた。
「…笑い事じゃないわ」
何もしていないのにいきなり攻撃はどうかと思うわ。
ソルディースは盛大に溜息をついた。
「…自己紹介がまだだったわね、私はソルディース。
客人としてここに来た…ってところよ」
貴方の名は?とソルディースは少年に問いかける。
「僕の名かい?僕はロキ。
一応神のはしくれさ」
よろしく、とロキはソルディースに向かい手を差し出し。
意外な行動に面喰ったソルディースは少し戸惑ったもののその手を握り返した。
「こちらこそよろしく」
ソルディースは友好的な神もいたものだと感心し微笑んだ。
ソルディースの笑みを見てロキは満足そうに頷くと空を見上げ
「ところで、ここで何をしていたんだい?」
済んだ青空を眺めながらソルディースに問いかけた。
ソルディースもロキと同じように再び空を仰ぎ見
「別に何も…」
滞在許可が下りたところで、アスガルドからは出られないし仕方がないから景色を眺めているだけ
と返答した。
「へえ……?」
どうやらソルディースは行動が制限されているようだと察したロキは興味深げに彼女を見やる。
「ヴァルハラでは自由にしていいって言われたけど、アスガルドから出られないのでは
特にすることも無くてね…」
どうしたものかと考えあぐねていたところなのよ。
ソルディースは溜息を洩らした。
「要するに、暇を持て余していると?」
「そう言う事になるわね」
ロキの質問に対しソルディースは即答すると、彼は彼女との間合いを詰め笑みを見せる。
「実は僕も暇を持て余していてね。
どうだい?僕と時間を共に過ごさないかい?」
「…別に構わないけど」
ロキの屈託のない笑みに惹かれ、ソルディースは彼の提案を了承した。
それからしばらくの時間ロキと共に過ごし、彼の話を静かに聴きソルディースはフレイからかいつまんで聞いていたヴァルハラとアスガルドの状況の詳細を知る事となる。
戦乙女、ヴァルキリーが死者をエインフェリアとして育て上げた魂を度々このヴァルハラへと送り込み、それらは来るべき日までの間日々鍛錬を積み有事の際は戦力として戦地に赴いている事。
エインフェリア達が訓練を重ねている姿を遠巻きに見ながらソルディースはロキの説明に耳を傾ける。
アスガルドと他の神族との統治の境界線は一触即発、にらみ合いが続いている事なども知る事となった。
(…だから私がここに来ることが出来たのか)
ソルディースはこのアスガルドの状況を知り、世界の存亡がかかっている事を把握する。
「どうかしたかい?」
暫くの間、ソルディースがエインフェリア達を見詰めているのに気付いたロキは彼女を見やった。
怪訝そうに自分を見詰めるロキに気付き
「ううん、なんでもないわ」
ソルディースはその場に腰を据え空を見上げる。
エインフェリア達が鍛錬に励んでいる場の上空もとても澄んだ青空であった。
ロキも同じようにソルディースの隣に腰掛け、彼はエインフェリア達を眺めていた。
少し離れた場所ではエインフェリア達が繰り出す奥義や、剣や槍など武器のぶつかり合う喧噪が聞こえる。
ロキとソルディースはお互いに干渉する事も無く二人の間に静かな時間が流れた。
どのくらいの時間そうしていたのだろうか。
数刻であったかもしれないし、数分であったかもしれない。
穏やかに流れていた時間は、遠くから聞こえる鐘の音によって終わりを告げた。
「…どうやら、今日の訓練は終了のようだね」
ロキは鐘の音が合図なんだとソルディースに説明した。
「僕らも宮殿に戻るとしよう」
ロキは徐に立ち上がるとソルディースに手を差し伸べ。
ソルディースはその手を取り立ち上がるとロキの後に続いた。
「じゃあ、また」
宮殿の入り口に辿り着くとロキはソルディースと別れ自分の部屋へと進んでいった。
「うん、また」
ソルディースはロキの背を見送ると、自分に宛がわれた部屋を目指し広大な宮殿内をフレイに案内された時を思い出しながら突き進んでいった。
ソルディースが部屋を目指して歩みを進めている時を同じく。
ロキは自室に向かいながら、ソルディースを初めて見て、後を付けたときの事を思い返していた。
オーディンは、彼女はミーミルの首が告げたラグナロクと関わりがあると言っていた。
ソルディースもまた、オーディンとフレイにはただ終末を見詰めるだけだと言っていた。
「……ラグナロクか…」
ロキは不敵に笑むと足早に歩みを進めていくのだった。
移転前初出:2018年7月4日
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