第十六話 開戦

 聖域、慰霊地。
此処にはかつての聖戦で亡くなった聖闘士や此度の聖戦で亡くなった聖闘士たちが静寂の中永遠に眠る場所。

歴代の聖闘士の墓所であるため慰霊地の範囲は広範囲にわたる。
その墓所の中でも今回の聖戦で命を落とした者たちが眠る一角の上空に美鷺は差し掛かった所で異変を感じ地に降りた。

「……?これは…」
どうも墓所が荒れているように見える。内側から崩れたかのような跡がちらほらと見受けられたのだった。
暫くその場の様子を探るため歩いて回ると、白銀聖闘士の墓地に辿り着く。ここもまた数名の墓が暴かれているかのように見える。だがこちらも墓の内部から崩れていた。
「……まさか」
嫌な予感がする。
美鷺は走って黄金聖闘士が眠る場所へと急いだ。

「…やっぱり…」
こちらも墓の内側から崩された形で何名かの墓が荒らされていた。
永久に続くはずだった安息の眠りを妨げたのは誰か。
この規模から想像したくはないが…と物思いに耽ろうとした矢先。
「こんな墓所に女、だあ…?」
声に気付いた美鷺は後ろを振り返る。そこに居たのは数名の見知らぬ人物。
その身には美鷺には見たことがない黒い鎧を身に纏っている。
「なんだこいつ、手に血の跡がついてら」
別の人物もじろじろと美鷺の様相を見やった。
この見たことの無い鎧をまとった数名の人物が墓を暴いた犯人だろうか?美鷺は様子を伺うことにしたのだった。
「ああ…これは…」
うっかりしてましたわ、手を洗ってくるのを忘れていました、と美鷺はぽそりと呟いた。
「おい、そこの女。
亡者どもを見なかったか?」
「亡者?」
はて、何のことでしょう?と美鷺は肩をすくめてみせる。
「我がハーデス軍の走狗になり下がった聖闘士どもの事よ」
「……ハーデス…」
その名を聞いて美鷺はやっと合点がいったのだった。
この内部から崩れている墓標の数々。規模の大きさ。
ついに動き出したのだと。
「…知らんようだな?」
「ああ。正規の冥闘士数名も先に行ったようだな」
男たちはひそひそと美鷺の様子を隈なく観察している。

「おい、この女、仮面をつけていないよな」
「ああ。聖域ではアテナ以外の女は仮面をつけていると聞く。
こいつあ俺たち雑兵に運が回ってきたな…」
男達は美鷺を取り囲もうとじりじりと間合いを詰め始める。

じわり、じわり…。数歩ずつさらに間合いを詰めた。
「…死ねええ!」
男たち数人が美鷺めがけて大きな鎌を振るい始める。
「……甘いですわ!」
それに呼応するかのように美鷺は上空に瞬間移動し男達めがけて掌をかざし術を放つ。
「ぐえええええ!!」
「ぐがああああああ!?」
男達はいつの間にか地面にへばり付いていた。
「はいさようなら?」
そう言うと美鷺は男たちを問答無用で元居たであろう場所、すなわち冥界へと送り帰す。
「うおおお?!おのれ……」
不可思議な術を使われ男たちは苦し紛れに捨て台詞を吐いたかと思えばあっけなく墓地から消え去ったのだった。

辺りは再び静寂に包まれる。
「…ま、雑兵相手なら本気を出すまでもありませんしね…。
結界だけは強化しておきましょうか」
再びハーデス軍の雑兵が迷い出てこないようにと墓地内部の結界を強化する。
粗方結界の修復が終わったところで白羊宮の方角で異様な小宇宙を感じ美鷺はその場へ向かう為再びテレポートを行った。

 一方、白羊宮。
第一の宮である白羊宮では主であるムウと冥闘士として蘇ったデスマスクとアフロディーテが戦闘状態に入っていた。

「かつては全てを知り尽くしている十二宮の道!
アテナの寝ている教皇の間までなどわけもない事だ!」
デスマスクは高らかに笑うとムウに迫りよる。
ムウはそれに応じ道を阻もうとしていた。

そんな最中。
「……何かが来る
避けろデスマスク」
黒衣を纏った謎の人物が避難を促すより早いか、彼等の上空に現れ出でたのは…
「…知った小宇宙を感じたと思えば」
慰霊地から跳んできた美鷺は着地点を間違え空に出たことに少々驚きつつも地面を見やる。
そしてそのままヒュルルルと勢いよく落下していった。
「な、なんだあ?!」
デスマスクは突然の事に瞠目し避けきれず
「ぐえっ!」
その背に美鷺を乗せる形で彼女を受け止める事になったのだった。
「っ…!あら、ごめんなさい?」
着地の時点で受けた衝撃に少し顔をしかめつつ美鷺はデスマスクの背から降りた。

「なんだってんだ…って、ミサギか??」
デスマスクは先程まで自分の背にいたのが美鷺であると知り目を見張る。
「ミサギ、その手は一体…?いや、それよりも何故白羊宮に」
アフロディーテも、教皇の間に居るであろう人物が白羊宮に現れたことに心底驚いていた。
「守護者殿??」
ムウも美鷺の身形を見て慌てて自身の陰に匿おうとする。
「…ああ…。この血は私のではありませんから心配無用ですわ?
やはり手を洗ってくるべきでしたわね」
緊急事態とはいえ失念していましたわ、と美鷺はムウの背から覗き込むようにデスマスクとアフロディーテ、黒衣の人物を見やった。
「見たところ貴方達はハーデスの先兵になった、という事で宜しいかしら?」
先程まで墓地で貴方達の墓が崩れていたのを見ていましたけれど、と美鷺は溜息をもらす。

「そういうこった。話が早くて助かるぜ
ミサギ、あんたは無傷で冥界に連れて来いって言われてるんでな」
そう言うとデスマスクはじりじりと間合いを詰め美鷺に近寄ろうと試みる。
「…何故?」
「それは冥界で直接ハーデス様にお尋ねするが良いかと」
アフロディーテも少しずつ間合いを詰めた。
ムウはその間合いに割って入る形で美鷺に近付けまいと牽制した。
「そうねえ…。自らの手を使わず死者を使って目的を為そうとする
そこに文句をつけにいずれは参りますわ?」
にこりと笑んで美鷺は答える。
「でもそれは今じゃありませんわ」
美鷺は間髪を入れずふわりと宙に舞う。
「再び私の目の前に現れる事が出来たら考えましょう。
ムウ、あとは頼みましたよ?」
そう言うと再び美鷺は空を駆けて行った。

 冥闘士としてかつての聖闘士が蘇った。
十二宮を知り尽くしている彼らが敵では雑兵も手も足も出ないだろう。
彼等だけ蘇ったとは思い難い。きっと他にもいるはずだ。
何せ、正規の冥闘士も何名か入り込んでいる節がある。
美鷺は事態は急を要すると察し一目散に沙織の元へと駆けて行った。

移転前初出:2017年9月22日

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