五月のある晴れた日。
聖域では至って平和な時間が流れていた。
執務室では聖闘士が日々の職務に励み机にかじりついて書類をさばいている。
ある者は外任務で聖域の外に赴いている。
執務室で職務に励んでいたサガと美鷺に、アテナ沙織は声を掛けた。
「お姉さま、サガ、ちょっと宜しいかしら?」
「なあに?」
美鷺は作業の手を止め沙織を見やる。
サガも同じく書類を机上に置き沙織の元へと席を移した。
「お二人とも、たまにはゆっくり休暇を取ってみては?」
ここの所働き尽くめでしょう?と沙織は心配そうにサガと美鷺を交互に見やる。
「…は、しかし私は…」
サガは怪訝そうに沙織を見詰め、自分は休む必要はまだないのではと返答しかけ
言葉を飲んだ。美鷺は休ませた方が良いだろうと思ったからだ。
「サガ、体をしっかり休めることも聖闘士の仕事のうちだと思いますわ?」
執務の進み具合が心配になるのは分かりますけども、
有事の際に備えて体調を万全に期しておかなければ、ね?
「お休みの間は、執務に出ている他の聖闘士に頼って良いのですよ?」
ね?と沙織は優しくサガの顔を見詰め微笑んだ。
有無を言わせないアテナスマイル、といった所か。
「は、はあ……」
アテナにそこまで言われては致し方ない、とサガは了承ともとれる返答を出す。
「では、お二人とも明日から3日間休暇という事で」
沙織は満面の笑みを浮かべ、美鷺に目配せを送った。
──沙織の言う3日間の間に確か大事な日があったはず…
沙織の合図に気付き美鷺は日程を思い返す。そしてそれは何であったかを思い出す。
とても大事な日が目前に迫っているのであった。
美鷺も沙織に目配せを返すと、沙織は満足そうに微笑んだ。
休暇1日目。
5月29日。
前日に、3日間執務室での内勤担当聖闘士に特記事項を引き継ぎ済ませたサガは
双児宮の私室にてのんびりと読書を美鷺と楽しんでいた。
美鷺は3日間双児宮に滞在し、サガとの何気ない日常を過ごすことにしたのだった。
読書を通じてお互いの価値観を披露しあったり、
風景の写真集を眺めては二人で出掛けるならこういう所がいいかなど空想を描いたり。
ゆったりとした時間が流れていく。
時にはお互いソファーで午睡を嗜んだり。
それは些細な事ではあるけれど、とても幸せに満ちた時間だった。
休暇2日目。
5月30日。
この日は朝から晩まで双児宮に来客が絶え間なく続いた。
それもそのはず、双子座サガ、カノンの誕生日であったからだ。
カノンは内勤で朝早くから執務に出ており、執務室で祝われていることだろう。
「サガ、誕生日おめでとう!」
かつては年下の黄金聖闘士に慕われていたサガ。
今現在もそれは変わらないが、祝われる資格など自分にはないと思っていたサガは
教皇宮に上る道中や、休憩時間などにわざわざ自分の元へ足を運んでくれる聖闘士に思わず顔がほころぶ。
そしてサガはふと、この休暇はもしやアテナからのプレゼントだったのではないか?と思うのであった。
美鷺はそんなサガの様子を傍らで眺め、優しく笑んでいた。
流石はサガ。かつては神のようなとも言われていただけあって同胞からの慕われようは
間近で見ていて美鷺はとても嬉しくなったのだった。
夜はカノンも交えて教皇宮で晩餐を摂った。
祝いの席だからと酒を勧められサガはカノンと共に杯を取りそれを飲む。
カノンと肩を並べて祝われる日が来ようとはとサガは感慨もひとしお。
珍しく酒を数杯嗜んだのだった。
美鷺は、とても嬉しそうなサガを見て自然と笑みがこぼれた。
晩餐が終わり、それぞれ帰宮する。
サガと美鷺が双児宮に辿り着いたのは人定の頃。
休暇の時間も残すところあと1日。
お酒も入りほろ酔い加減でサガはベッドに横になると微睡み始めいつしか健やかな寝息を立てていた。
美鷺はサガを起こさないようにベッドに潜りサガの隣に横たわる。
普段は美鷺が先に寝入ってしまうため、サガの寝息を聞くのは珍しい事であるが故美鷺はサガの寝顔を見やった。
サガの頬はほんのり赤く色づき、幸せそうに眠っている。
その姿に美鷺は頬をほころばせ、サガの胸元に顔を埋めた。
聴こえてくるのはサガの規則正しい心音。温かな体。
サガと共に在れる幸せを美鷺はかみしめる。
胸元から顔を上げ今度はサガの顔を再度見詰める。
「生まれてきてくれて……共にいてくれてありがとう…」
HappyBirthday…と呟いて頬にキスを落としまたサガの胸元に潜ると美鷺も眠りについた。
翌朝。
夢現に美鷺にキスをもらった気がしてサガは頬を赤らめ起き上がった。
美鷺はサガの傍でまだすやすやと眠りについている。
その姿を眺めサガは幸せを噛み締め目を細めた。
「美鷺と居られる時間こそが私にとって何よりのプレゼントだ」
と呟くと美鷺の頬にキスを返す。
さて、休暇最終日。二人で何をして過ごそうか?
ささやかな幸せ、それは、愛しいものとの何気ない日常を共に過ごせるという事。
誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、ありがとう。
移転前初出:2018年6月3日
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます