湿度も高く気温も高い。
日本の夏。ここ城戸邸のある東京も例外なく暑い。
屋敷の各部屋は冷房を掛けてはいるがそれでもやはり廊下は暑い。
湿気でじめじめとしており肌にまとわりつくそれにより汗も滲み出す。
星矢はキッチンから氷菓を取り出すといそいそとリビングルームに向かった。
「くう~っ!やっぱり涼しい部屋で食べるのが一番だぜ!」
ソファーに腰掛けながらぱくりと棒アイスにかぶりつく。
スカイブルー色の見た目が涼を誘う。味は爽やかなラムネを模している。
堅さも申し分ない。咀嚼すればしゃくりしゃくりと小気味よい音が響いた。
やっぱりアイスと言えばこれだぜ!と星矢は満足気に食べ進める。
ガチャリとリビングのドアが開く。と、扉の向こうには外出から戻った沙織の姿があった。
沙織の背後には美鷺とサガが控えており、移動しながら打ち合わせでもしていたようだ。
彼女等は皆スーツを着ていたのである。
「沙織さん、おかえり」
星矢はアイスを食しながら三人を出迎えた。
「星矢」
ただいま戻りました、と沙織はにこやかに笑みを浮かべると星矢が手にしているものに興味を示した。
「星矢、何を食べているのです?」
沙織は星矢の真向かいに腰を下ろすと興味深げに見つめ問いかけた。
星矢はきょとんと沙織を見つめ返すとアイスをもうひと口食べてからその問いに答えた。
「何って、ガリゴリさんだよ」
このアイス美味いんだぜ?と星矢はまたひと口頬張りもぐもぐと噛み砕く。
「…ガリゴリさん…?」
沙織は星矢の手に握られている棒に刺さった氷菓をまじまじと見つめる。
星矢はその反応に驚き身を乗り出した。
「…まさか本当に知らないのかい?」
「ええ…」
「いつも食べているのがカップアイスのジェラートだから…」
沙織の頷きに付け加えるように美鷺もフォローを入れる。
「私もそのような氷菓は初めて見るが…」
ギリシャではカップアイスが多いのでな、とサガは一言付け加えると美鷺の隣に腰を据えた。
星矢も修業時代はギリシャに居たと言えども、アイスを頬張る余裕などなかったためサガの発言に驚き
「本当かよ…。すごく美味いんだこれ。
まだ冷凍庫に何本かあるから持ってきてやるよ!」
食べてみてくれよ、な?と星矢は最後のひと口をぺろりと平らげると三人の返事を聞くまでも無くリビングを抜け出した。
数分も経たぬうちに両手にガリゴリさんを複数携えて星矢は戻ってくると三人に配りだす。
「頂いても良いのか?」
後日食べようと残していたのでは?とサガは星矢に尋ねれば、まだ残りはあるから大丈夫だと星矢は笑顔を向ける。
「では…」
「頂きます」
ぱくり、と沙織と美鷺は一口かじる。サガもそれに続いた。
口の中に広がる清涼感、ジェラートとは違い食感はシャリシャリとする。
昔懐かしいラムネの味。甘すぎず丁度良い味わい。
「……美味しい…」
ぱくり、と二口目を頬張る三人。
「だろ?美味いだろ?」
自分の事を褒められたかのように星矢は満面の笑みを浮かべた。
「ああ、とても美味だ」
サガは星矢に微笑むと日本のアイスの種類に感心する。
「今までにない食感ですわ?」
「ありがとう星矢」
美鷺と沙織も口々に感想を述べると星矢は破顔一笑した。
一口、またひと口と食が進む。シャクリシャクリと小気味良い音が室内に響いた。
「日本の氷菓は種類が沢山あるのだな、素晴らしい」
ガリゴリさんを食べ終えたサガは隣に座っている美鷺を見やる。
丁度食べ終えたところの美鷺はサガの視線を感じにこりと笑んだ。
先に食べ終えていた沙織と星矢は話が弾んでいる様で。
二人の楽しげな声がリビングに響いていた。
聖戦ではとても大変な思いをした沙織と星矢だ。
聖戦が終わった今は人としての時間を歩んでほしい。
星矢と沙織の楽しげな様子を傍で眺め美鷺は二人が幸せそうで良かったと穏やかに笑みを浮かべる。
サガは美鷺のその微笑みを愛おしく思いそっと手を添えた。
美鷺はそれに対し何事かとサガを見上げる。
「こうして、穏やかな時間を共に過ごせること嬉しく思う」
サガはしみじみとした面持ちで語り掛ける。
「アテナの元で、美鷺の傍で日本の夏を体感する。
こうした日常を過ごせる日が来るなど、昔の私では到底考えも及ばなかっただろう」
サガは少し表情を曇らせつつもそう語った。
「サガ…」
美鷺はサガの手をそっと握り返した。
「私は大罪を犯した、本来であれば許されるべきではない存在だ。
こうして再び生を与えられた今、アテナの為に忠義を尽くし生きていきたい」
だが…とサガは一息呼吸を入れると美鷺の目を見詰め
「美鷺と何気ない日常を共に生きる時間も大切にしたい」
サガはそう伝えると微笑んだ。
その笑顔はとても美しく。そしてその言葉に美鷺は顔を朱に染め上げ視線を逸らした。
「わ、わたしくしも…」
美鷺は意を決するとサガの目を見つめ返し
「私もサガとの時間を大事にしたいですわ?」
微笑みながらサガに自分の思いを伝えたのだった。
お互いの気持ちを確かめ合ったサガと美鷺はくすりと笑い合う。
そんな二人をこっそりと眺めていた沙織と星矢は、サガと美鷺の仲睦まじい姿を見、
幸せそうで良かった、と微笑みあった。
沙織は美鷺がサガを失ったときの落ち込み様を知っている。
それゆえに、今この瞬間、かけがえのない時間を謳歌している姿を見て沙織は安堵した。
夏、思い出とともに。
このかけがえのない穏やかな日々をいつまでも。
今日のこの日がいつまでも心に残る思い出となりますようにと美鷺は心から願った。
その後、城戸邸ではガリゴリさんを気に入った沙織によりガリゴリさんがプチブームとなったのだった。
移転前初出:2018年8月8日
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