瞳に映るもの

 早朝。
陽の光が窓から差し込み美鷺は目を覚ます。
隣には肌を惜しみなく晒し、引き締まった美しい肉体に服を纏うことなく布団の中で規則正しい寝息を立てているサガが居り。
同じく美鷺も一糸纏わぬ姿で布団の中に居たのであった。
美鷺は昨晩の事を思い返し顔を朱に染め上げる。
初めてサガと結ばれた夜。愛しい人に愛された日。何度も求められそれに応えた日。
愁いを秘めた眼差しの普段とは違いとても情熱的で艶やかに熱を帯びたサガの瞳。口からは愛おしげに美鷺の名を呼ぶ麗しい声が響き。
永い時を生きてきた美鷺ではあるがどれも刺激的で。美鷺の口からも甘くサガの名を呼ぶ頃には理性と言う枷が崩れ去り互いの望みに応えたのだった。

 美鷺の瞳に映るはサガのしなやかな指先。端正な顔立ち。朝日を浴びてキラキラと輝く美しい髪と睫毛。 
昨晩の時の事をまざまざと思い出し美鷺は更に顔を赤く染める。
普段の自分からはとても考えられないことだったからだ。

──…わ、私ったら…
はしたないと思われたらどうしましょう…
ぽふん!と美鷺は布団の中に潜り直し身を隠す。
服を身に纏っていない羞恥心も相まっての事だった。

幸いなことに、まだサガは目覚めていない。
今のうちに服を着ようか?美鷺は布団の中でもぞもぞと身じろぎすると服を探そうと顔をひょこり、布団から出した。

すると。
「おはよう、美鷺」
「!!」
寝起きのサガと目が合った。
どこか艶めいた視線に美鷺の心臓は途端に跳ね上がる。
「お、おはようございます…」
サガが起きているとは思わなかったものだから美鷺は妙に声が上ずってしまう。
布団の中で身動ぎしすぎただろうか?などと美鷺は内心焦りつつもちらり、サガを見やった。
サガは美鷺の視線に気付いたのかふわりと笑む。その笑顔がとても眩しい。
美鷺はいつの間にか見惚れていた。
「…?美鷺?」
微動だにしない美鷺を不思議に思ったのかサガは優しく声を掛ける。
それに呼応して美鷺ははっと我に返ると
「な、なんでもありませんわ?」
頬を染め上げしどろもどろになりながらもサガの視線に応えた。
「そうか?」
「ええ、本当に」
美鷺は気恥しくなり再び布団の中に隠れようと動くもサガにそれを阻まれた。
「何故隠れようとするのだ?」
優しく美鷺の動きを制し、ぐいと腕を引くとサガの胸元に美鷺をすっぽりと閉じ込めた。
急な出来事に美鷺は短く声を漏らす。
すぐ間近にサガの逞しい胸板がある。それを思うだけで再び昨夜の事が思い起こされ。
「だ、だって…!」
まだ服を着てないですし…と美鷺は恥ずかしさでいっぱいな表情を隠すため顔を埋めた。
「…?そのままの美鷺もとても美しいが?」
「なっ…!」
思いもよらないサガからの言葉に美鷺は思わず顔を上げる。
そんなことはありませんわ、と美鷺は反論しようと思っていたがサガの表情を見るに
心の底からそう思っているのであろうことが伺える。
故に美鷺は反論することなく口をパクパクと動かすことしかできなかった。
そんな美鷺にサガは優しく額に口付けを一つ落とす。ただそれだけだのに美鷺は早鐘のように心音が跳ね上がった。サガの一挙手一動にときめきが止まらなくなる。
たまらなく愛しい。
一体私はどうしてしまったのかしら?
美鷺は自分がおかしくなってしまったのではないかと思うと再びサガの胸元に顔を埋めた。

美鷺の仕草がとても愛らしく思えたサガは彼女のつむじにまた一つキスを落とす。
それにぴくんと肩を震わせ反応を返す美鷺。サガは自然と笑みがこぼれた。
「…美鷺、朝には些か早い」
幸いなことに、今日は二人とも休日だ。
サガは優しく美鷺に語りかけると抱きしめ直し。
「今暫く、このままで…」
そういうとサガはうとうとと微睡みだし、いつしか眠りについた。
「………」
サガの健やかな寝息が聞こえる。
サガの温かな体温。すぐ傍にサガが確かに居る。脈打つ心臓。
一時はもう二度と傍には居られないと思っていた。
それが今はこうして共に在れる。
それはとてもとても幸せなことだ、美鷺はサガの腕の中でそう感じ、サガの心音を子守唄に眠りについた。

 瞳に映るもの。
それは、愛しい人の安らぎに満ちた寝姿。
それは、確かに存在している証。
それらはとても愛おしく。

いつまでもこの幸せが続きますように。

移転前初出:2017年12月1日

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