聖戦も終わりを告げ、日常に平穏が戻り日々平和な時間が訪れる。
聖戦時におった被害の復旧も概ね完了し、聖闘士は皆それぞれの職務を全うしている。
アテナでもあり日本にあるグラード財団の次期総帥でもある沙織は
日本とギリシャへ行き来し多忙な日々を送っていた。
そんな、春のある日。
「サガはいつも職務に追われていますけれど、貴方…ちゃんと休んでいるのですか?」
沙織は、ギリシャにある聖域に滞在し執務室にて書類に目を通しながら、己が従える聖闘士であり現在教皇補佐を勤めている双子座の聖闘士、サガにそう問いかけた。
現在の時刻は、日の傾きから鑑みると下午。
世間的にはシエスタが取られているであろう時刻。
盛夏ほどでもないが日差しが徐々に強くなり、それに伴い気温も高くなる、そんな季節。
午睡にはうってつけの気候である。
「は…休む、とは?」
教皇宮にある執務室で沙織に問いかけられたサガは彼女の真意を測りかねて、鸚鵡返しのように自分の仕える主に質問を質問で返した。
今現在、この場には彼女と、教皇補佐であるサガしか居ない。
「そのままの意味ですわ?
職務に励むのも良いですけれど、私は、貴方がちゃんと休息を取っているところが見たことがありませんもの…」
微笑みながら、返された質問に彼女は答えた。そして、私の問いに答えてくださるかしら?といった表情でサガを見詰める。
「は…。私も休むべき時は休息を取っておりますが」
「…嘘はいけませんよ?」
「け、決して嘘では…」
女神の、己を真っ直ぐ見詰めるその視線に耐えかねてサガは言葉を詰まらせ目をそらした。
「…やはり、ちゃんと休んでいないのですね」
ほう…、と俯きながら沙織はため息を漏らす。
お姉さまが心配するのも無理もありませんわ。
そう、ぽつりと呟いた。
「も、申し訳ありませんアテナ。ですが…私が犯した罪は…」
己は休んでなどいられない、それだけの大罪を犯しているのだ。贖罪の為に尽力したい、そう言いたげな表情をしている。
「サガ、貴方の気持ちは痛いほどに分かります。
でも、無理をして倒れでもしたらどうなさるのです?」
「それは…」
痛いところをつかれてサガは返す言葉もない。
自分が倒れれば、デスクワークが苦手な聖闘士を纏め上げる存在がいなくなるだろう。
彼はそれを痛いほど理解していた。
「お姉さまがとても心配していましたわ」
沙織は唐突に、己の守護をしてくれている姉を話題に持ち出した。
「…美鷺が、ですか…?」
一体何故?とでも言うようにサガは首をかしげた。
「ええ。日本にいるときも、聖域にいるときも、
私同様に、貴方がちゃんと休んでいるところをお姉さまも見たことがないのです。
このままでは、貴方が倒れてしまうのではないかと心配しておりますのよ?」
貴方のことが心配で、お姉さまの方が心労をつのらせていますわ…
ほう…、と、本日2度目のため息を彼女はついた。
「そ、そんなことは…」
「サガはお姉さまのこと、どう思ってますの?」
沙織は何の前触れもなく、いきなり核心を突く。
「ど、どう、とは…?」
職務一徹、真面目な青年であるサガは、またもやアテナの真意を測りかねて言葉を詰まらせる。
こういった質問に、どう返せばいいのか皆目見当がつかないのである。
そういえば、辺りを見回してもいつも彼女の側に控えている美鷺の姿が今日は無い。
…美鷺の身に何かあったのか?
サガはそう思案しながらも、アテナへの返答をどう返すべきか苦慮していた。
「…もういいですわ。
お姉さまは…お疲れ気味なの」
彼女から発せられたその衝撃の言葉にサガは一瞬瞠目した。
美鷺が倒れたのか?!そう考えたためだ。
「私からのお願いになるのですが…サガ?」
「あ、アテナ、申し訳ありません。
御前失礼いたします…!」
そう言うや否や、サガは残りの書類もそのままに、執務室を疾風のごとく駆け抜けていった。
「……まあ、まだ話は終っていませんのに。
…でも、結果オーライ、といったところでしょうか?」
沙織は、彼がこれからどこへ向かうか予測が出来ていたので執務室で満足げに微笑むばかりであった。
「…美鷺!!」
ばんっ!!
と、先程まで渦中の人であった彼女、聖域内にある美鷺の私室へとやってきたサガは勢い余ってドアを開け放った。
「きゃっ…!?
…さ、サガ?一体どうしたのです?」
風邪でも引いたのだろうか、突然の出来事に驚いていた彼女は少し顔色が悪かった。
「アテナから聞きました、体の具合は?」
そう言うや否や彼は美鷺を抱きしめると、熱を測るように己の額を彼女のそれにあてがう。
するとどうだろう。若干熱を持っているように感じ取れるではないか!
「な、なな、なんです急に?
さ、沙織がなんと言ったのです…?」
「寝ていなくて大丈夫か?」
さあ、寝所に行こう、そういった様子で彼女を抱きかかえようとサガは彼女に寄り添った。
「な、なんのことです?
一体沙織は貴方に何を言ったのです?」
とにかく落ち着いて!といわんばかりに美鷺はサガに優しく問いかけた。
「…アテナから、美鷺、貴女が倒れたと…」
話の途中で女神の御前を辞したサガではあるが、女神のためにここで弁明するなれば。
女神は決して、美鷺が倒れたとは一言も言っていない。
「…沙織が?」
「…はい。
どうやら、熱もあるようだ、早く寝室へ…!」
さあ、遠慮はいらない。
と、サガは彼女の弁明も聞かずに抱き上げ、私室内の奥にある、美鷺の寝所へと歩を進めて行ったのであった。
移転前初出:2018年4月1日
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