遠い、遠い記憶なのだろうか?
夢を視た。遥か昔の出来事を。
そこに在るもの全てが酷く懐かしい。
私は巫女だった。その土地に住まう者ではなく、流離いの者。
方々で依頼があれば神事をこなす、そういった存在だった。
妖怪退治はあまり請け負っていなかった。
巫女と言えば退治やお祓いが主だと思っていたけどもその私はこの世に存在する者全て居て良いという考えの持ち主のようで。
人里に危害を加えない者であれば祓う必要はないと考えていたようだ。
人はあまりにも弱い。
自分にない力を持つ者を恐れ敬う。時には多勢でその力あるものを迫害・貶めたりもする。
妖が何もしていなくとも、悪い出来事は彼等のせいにする節もある。
何もかも彼等のせいにして追い払うのは乱暴でありお門違いであると思っていた。
ある時、私はとある人里に流れ着いた。
そこには同業者が居り、妖怪退治を請け負っていた。
綺麗な巫女。名を翠子と言った。
彼女は人里に降りて悪さをする妖を祓っていた。彼女が居る限りこの里は平和であるだろう。
一度だけ、彼女と話をしたことがあった。
彼女もむやみやたらと祓う巫女ではなかったのが伺い知れた。
ただ、里の近辺に妖が集まりだし翠子を狙う妖怪が増え、必然的に退治数が増えているらしい。
巫女が二人もいると妖を刺激する恐れもある。無闇に事を荒げる事もないと思い私は早々に次の里へと向かう準備を進めていた。
翠子と話をしている途中、里に住む気が弱そうな青年1人が彼女の事を熱心に見詰めていた。
その人物の事が気がかりではあったが私は早々に旅立ち、その旅の途中で野党に遭遇し……
「おい、湊!いつまで寝てるんだい!」
湊の頭上で神楽の怒声が響く。
「うわあああ?!」
湊は大声を上げて目を覚まし布団をがばりと押しのけた。
それに対し神楽は一歩後ずさりをし、そんなに驚くとは思っていなかったという表情を見せた。
「…斬られるところだった…」
湊は肩で息を荒くつくと神楽は何言ってんだいと怪訝そうな顔を見せる。
「ったく…。いつまでたっても奈落の所に来やしないから
様子を見に来たら呑気に寝てるとはな…」
神楽は盛大に溜息をついた。
「呑気でもないよ…斬られる夢なんて物騒過ぎて」
何かの暗示とかじゃないと良いけど、と湊も盛大に溜息をついた。
「さっさと支度しな」
朝飯が冷めちまう、と神楽はのんびりしている湊をせかす。
「…朝ごはん用意してくれてるのって神楽なの?」
いつも不思議に思っていたことを湊は口にした。
朝晩と奈落の部屋に向かうときちんとお膳が添えられているので不思議で仕方がなかった。
特に、城から湊以外の人間を見なくなってからは。
「ああ、あたしと神無さ」
用事であたしが居ない時は神無が支度してるけどな、と付け加えた。
「…遅かったではないか」
奈落の部屋に湊が現れると奈落はくくっと笑むと
「瘴気でくたばったのかと思ったぞ?」
傍から見るととても機嫌が良さそうに言い放った。
「冗談じゃない」
それに対し湊はくたばってたまるかと憤慨した。
「まだ恩返しもできてないのにくたばれないよ」
夢の中ではくたばりかけたけどさ…と湊はぶつぶつ文句を溢しながら席に座る。
「…ほう?」
湊の意外な言葉に興味を示した奈落は、話してみろという風情で彼女を見詰めた。
「なんだかね…今朝見た夢が妙に現実味があってさ。
目にした全てが懐かしいし、話した人も懐かしいの」
「……」
朝餉をもくもくと食しながら湊はそこまで話す。
湊が食べ終わるのを待ち奈落は続きを促せた。
「私はさすらいの巫女で…」
巫女と言う単語に奈落は目を細める。
「…ほお?」
つくづく、巫女と言う者は厄介だなと奈落は思いつつ湊の話を待つ。
「ある人里で翠子っていう巫女に出会って話をしたり?
次の里目指して旅の途中で野党に襲われて切り殺されるすんでのところで目が覚めた」
「……」
奈落は翠子の名に覚えはないが酷く気にかかり沈黙する。
神楽は「だから起こした時あんな大声が出たのかい」と納得した。
「…湊。貴様に何か特別な力はあるのか?」
「私?私は無いよー。霊感もないし…」
自慢じゃないけど、ここに来るまでそういうの視たことないもの。
湊は胸を張って答えた。
「夢の中での私はお祓いするぐらいだったかな?」
「ふん…」
奈落は湊の答えを聞き一つの答えを導き出す。
それは、湊の前世がその流離いの巫女であり、本人は気付いていないが巫女としての力は潜在しそれ故奈落の瘴気が効いていないのではないか、という事である。
瘴気の無効化以外は特に目立った力もない様ではあるが、何の因果か巫女との因縁が強いものよと奈落は秘かに溜息をついた。
ここにきて漸く、湊に瘴気が効かない原因が判明した訳である。
奈落としては巫女と言う存在が自身を脅かすものであるが故疎ましい者ではあるが
湊自体は巫女ではない。奈落に牙を向ける様子もないので傍に置いておいて問題は無い。
「それにしても、なんで切り殺される夢なんてみたんだろ」
湊は盛大に溜息をつくと夢見が悪すぎる…とぶつぶつと愚痴を漏らした。
気にかかる点は、湊の言う通り何故そのような夢を視たのか、といった点のみであった。
移転前初出:2017年12月25日
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