神無の鏡により、無双と犬夜叉が出会った事を知った奈落は次の策を講じた。
牢に繋いでいた神楽の元に赴き、拘束を解くと神楽に任務を命じる。
逆らう事も逃げる事も止めた神楽は渋々とその任を請け負った。
神楽は、無双を追っていた犬夜叉達に目的の人物の居場所を伝えると、彼等の行方を監視。
万事、奈落の望む通りの流れになったところで奈落は湊を置いて城を出た。
台所から奈落の部屋に戻った湊は、いつの間にか姿を消した奈落を探すのは諦め、自室に戻り仮眠をとることにしたのだった。
以前城から飛び出した時に嫌と言うほど危ない目に遭ったため、無闇に外出することは得策ではないと学習したからだ。
一方、奈落は一度鬼蜘蛛の心を持つ無双を排出したが、まだ自身の繋ぎに必要な彼を再び取り込んだ所で犬夜叉とかち合った。
かごめは不在だった為、湊の名を出しても犬夜叉にはさほど効果は無いと踏んで奈落は半妖の哀れさを説き犬夜叉の神経を逆なでる。
風邪の傷を強固な結界で弾いだ奈落は、己の改造の成果を犬夜叉に見せつけ神楽もろとも姿を消した。
暫くして奈落と神楽は城に戻ると、仮眠から戻った湊が二人を見つけて駆け寄る。
「おかえり」
「…湊、あんたまた寝てたのかい」
湊の髪がいくらか乱れているのに気づいた神楽は呆れたように溜息を付けば、湊は不服そうに頬を膨らませた。
「だって、誰も居ないし外に飛び出しても危ないし?
することないからつい…」
そう言うと湊は、ふと奈落の格好に目が行った。
「……奈落、もしかして狒々皮の下に着物着てないの?」
なんで素肌見えてるの?と首を傾げる。
変な趣味でも持っているのだろうか?と疑問に思っていると奈落は妖しく笑み
「…知りたいか?」
湊の顎をグイッと引き寄せ視線を交わした。
「い、いえ…ナンデモナイデス…」
身の危険をなぜか察した湊はしどろもどろに、質問をなかったことにしたのだった。
それから数日経ったある日。
暇を持て余していた神楽と湊は、何の気なしに廊下に腰を据えながら世間話をしていた。
「神楽には両親っているの?」
自然と会話の流れは身の上話になっていた。
「あ?あたしと神無は奈落から生まれた分身だから親はいねえよ」
そう言う湊はどうなのさ、と神楽は返す。
湊は、居ることはいるけど、暫く顔も合わせていなかった、とぽそりと呟きふと思った事を口にした。
「…奈落から生まれた?」
「ああ」
それがどうかしたのかと神楽はちらりと湊を見やった。
「それって、奈落が母であり父であるって事?」
神楽と神無の両親は奈落って事??と湊はストレートに疑問をぶつける。
湊のその言葉を聞いて神楽は暫く考えた後、心底嫌そうな顔をし
「…考えたくもない話だな」
あいつが親ってタマかよ、と鼻で笑った。
「ご、ごめん」
それもそうか、と湊は奈落の母親姿を想像するのは止め頭を掻いた。
「…ほお?」
湊の背後から良く知った声が響いた。
「……」
「うわ」
神楽はばつが悪そうに、湊は冷汗をかきながら後ろを振り返る。
「…なかなか楽しそうではないか」
神楽、仕事だ。と奈落は冷たい視線で神楽を見やれば、彼女は分かったよと立ち上がる。
二言三言密談を交わした後神楽は城の外へと向かって行った。
廊下に取り残された湊は、沈黙が辺りを支配しているこの状況に未だ冷汗が止まらない。
「……」
「………」
湊と奈落は暫く無言で見詰め合う。
湊は蛇に睨まれた蛙の様に身動きが取れないでいた。
「…湊」
先に沈黙を破ったのは奈落であった。
「な、なに?」
湊は佇まいを正し奈落の次の言葉を待つ。
「これからしばらく後に客人が来る手筈になっている。
貴様は自室から一歩も出ずに待機していろ」
「お客さん?」
珍しいね、奈落がお客さん呼ぶんだ?と疑問をつい口に出す。
「もてなしはわしが丁重に行う故貴様は間違っても庭には出るな」
貴様の命の保証までは出来ぬからな、と言葉を終える。
「…お屋敷に上がってもらうんじゃないんだ?
ってか、それっておもてなし…?」
命の保証はないと言われては湊も奈落の指示に従うよりほかはない。
だが、命の保証はないとはどういう事だろう。庭で戦でも始めるのだろうか?
湊は戸惑いを隠せないでいると奈落はククッと笑む。
「気になるか」
「うん、まあ…」
でも、危険なら大人しく部屋で待機してるよ?と湊は奈落に従う意志を見せた。
「賢明な判断だな」
くくと含み笑いを奈落は見せると湊の頭を軽く撫で、さあ、行けと言わんばかりに廊下を後にした。
奈落の背中を見送った後湊は自室に戻り畳の上にごろりと寝転ぶ。
「お客さんかあ…」
誰を呼ぶんだろう?気になるなと湊は思いつつも、庭は危険だと言われ部屋から出る気はおきなかった。
現在は日も暮れ辺りは暗い。
こんな時間に本当に来るのだろうか?と蝋燭に明かりを灯しながら考える。
だがいくら考えても分からないものは分からない。
静寂が支配する部屋の中で湊は再び寝転がると天井を見詰めた。
いつの間にか転寝をしていたのだろう。蝋燭が半分に減っている。
湊は外での物音に気付き目が覚めた。
音のする方向は奈落に客人が来ると言われていたように庭の方角。
辺りは静かなため庭での物音が湊の部屋にまで聞こえているようだ。
「くくく…殺生丸様、せっかく御足労戴いたのだ」
奈落の声が響き渡る。
殺生丸と言う聞いたことの無い名前に湊は首を傾げる。
「この奈落…たっぷりとおもてなしいたしましょう」
そう奈落の声が聞こえたかと思えばバキバキと物凄い音が響き湊は耳が鳴り思わず耳を塞いだ。
「おもてなしっていうか、やっぱり戦なんじゃ」
湊は耳を塞いでも聞こえる戦闘音に戸惑いを隠しきれない。
庭には出るなと言う意味が漸く分かったものの、音が筒抜けであるため異様に気になる。
何度目かの轟音が響いた後。聞いた声が突如響いた。
「風の傷!!」
ゴウッ!!!と凄まじいうなり風が吹いた。
―あれ?この声は犬耳少年?という事はかごめちゃんも居るのかな?
湊は耳を塞ぐのをやめ庭に神経を集中させて聞き耳を立てた。
一方。結界で犬夜叉の風の傷を防ごうとした奈落は、結界を斬られもろにダメージを受けていた。
「犬夜叉きさま…結界を斬れるようになったのか」
計算外であった犬夜叉の特攻に奈落は潮時だと悟り撤退の準備を始める。
殺生丸からの打撃に瘴気を放ち、人質の居場所を伝えると奈落は犬夜叉達の前から姿を消した。
それと共に庭からは物音がしなくなった。
その直後。
「…?!なにこれ?」
周りがぐにゃりと空間が曲がったかのような錯覚に陥った湊は小さく悲鳴を上げた。
「湊」
目の前に奈落が現れ湊は再び小さく悲鳴を上げる。
「奈落?!どうしたのその姿」
片腕はもがれ、上半身裸、いたるところに触手はあれども、どれも強か傷を負っているように見えた。
「湊、来い!!」
奈落は残った片腕で湊に手を差し伸べる。
「う、うん」
有無を言わさぬ奈落に気迫に湊はすぐさま彼の手を取った。
湊が自分の手を取ったのを見届けると奈落は結界を張りながら、
大勢の妖怪を連れ立って城から飛び去るのだった。
移転前初出:2018年1月25日
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