「なんで湊ちゃんがここにいるの?」
「かごめちゃんこそどうしてここに?」
突然の再会にお互い訳が分からず、状況を確認しようと互い互いに質問を投げかけた。
「なんでい、かごめの知り合いか?」
そんな奴が何で神楽と一緒にいるんだよ、と犬夜叉は湊に剣先を向けたままかごめに尋ねた。
湊は切っ先を向けられたまま片手を掲げ首を横に振り、危ないから剣向けないでとアピールをする。
「湊、お前あの女と知り合いなのか?」
神楽も事の成り行きを見ようと湊の腕をつかんだまま問いかけた。
「うん、知り合いっていうか友達」
「知り合いも何も、湊ちゃんは私と故郷が同じだもの。
でも、現代に居るはずの湊ちゃんが何でここに…?」
かごめは骨喰いの井戸に入ったのかと湊に問いかけるも、湊は覚えがなくて首を横に振る。
「井戸なんか通った覚えはないよ?
私、アルバイト中になんでかこの時代に来ちゃってさ…」
帰る当てもなくて途方に暮れてたら丁度居合わせた奈落と神楽に助けてもらって一月半ほどお世話になってるよと質問に答えた。
「えええ!あの奈落が?」
人を助けるなんてあるの??とかごめは盛大に驚いた。
「え、そんなに驚くことなのそこ」
湊はかごめの驚き様に目が点になる。
湊の意外な反応にかごめは更に驚嘆した。
「驚くも何も、あの奈落がでしょ…?
湊ちゃん、悪い事は言わないわ、それはきっと裏に何かあるから…」
「…ほう?信用するなと」
賢明な判断だな?と含み笑いが聞こえる。
「そうかな?ご飯くれたり意外と気遣い細かいし良い人だと思うけど?」
湊は奈落に対して抱いた感情をそこまで答えて数秒後、違和感を覚え声のした方を振り返った。
「奈落!」
いつの間に現れたのか、そこには問題の人物・奈落の姿があった。
その場にいた全員が一斉に臨戦態勢に入ったのを見て湊はどうすればいいか分からず奈落の方を見詰めた。
「悪い事は言わないわ、湊ちゃん、お願いこっちに来て」
「え、でも…」
湊はどうしたらいいか判らず奈落とかごめを交互に見やる。
「神楽…」
「あいよっ」
奈落の一言で神楽は湊の腕を引き羽船に有無を言わさず乗せると空気の刃を一閃、犬夜叉の足元に再び放つ。
「てめえっ…!」
犬夜叉は間合いを取り直すと神楽に剣先を向ける。と、すかさず奈落は着物の袂を一閃すると自身から靄のようなものを生じさせ辺りにそれが散る。
「…!瘴気か…!」
法師姿の男性が悔しそうに手を握っているのが見えた次の瞬間。
湊の目には彼等の姿がなく、代わりに見慣れた城の一室に辿り着いていた。
「…!?どういうこと??」
いつの間にお城へ戻ったのか原理が分からず湊は目を白黒させる事しか出来なかった。
「わしにかかれば造作もない事だ」
フン、と奈落は湊の疑問に答えるでもなく独り言ちる。
「それより…。良いのか?故郷に帰る機会を逸したのかもしれんぞ?」
クククと笑むと奈落は湊の顎に手をかけ自身の目を見詰めさせる。
湊はまっすぐに奈落を見詰め返した。
「うーん、だって…今まで養ってもらってたし、急にさよならってのはどうかと思って。
やっぱ、お礼はしたいなって、さ」
「……」
奈落には到底理解し難い答えが返ってきたため暫し二人の間に沈黙が走る。
「それにしても、びっくりした。奈落とかごめちゃんって知り合いだったんだね」
話題を変えようと湊は「どうやって知り合ったの?」と奈落に問いかけた。
「………」
「奈落?」
湊の質問に答える義理などあるはずもない、だけれども何故だか無碍には出来ない奈落は徐に懐から紫色の、欠けた球体であろう物体を手にしぽつりと語り始めた。
「わしとあ奴等は互いにこれの欠片を集めている」
「これは何?」
「四魂の玉だ」
そう言うと奈落は再びそれを懐に仕舞った。
「ふうん、この玉の欠片を集めている時に知り合ったんだ?」
「そうだ。互いに敵としてな…」
「敵…?」
何でまた敵対してるのかと湊は思ったが、奈落はそれ以上の事は口に出さなかったので無理に聞き出そうとするのはやめた。
「これが完成したときには何が起きるの?」
「……これを使ってわしは完全な妖怪になる」
「…完全な?」
どういう事?と湊は首を傾げる。
奈落は妖怪だと言っていたが、不完全だという事だろうか?湊は彼の次の言葉を待った。
「…わしは半妖だ。忌まわしい人間の部分を切り捨て完全な妖怪…圧倒的な力を得るのだ」
「半妖だとダメなの?」
湊は不思議に思い問う。
思いもよらない言葉に奈落は言葉を失った。
「な…に…?」
言葉に詰まる奈落を珍しく思い湊は慌てて手を振る。
「ううん、半妖でも完全な妖怪でも、私にとっては奈落は奈落だから今のは聞かなかったことにして?」
私変な事言ったかな?言ったよね?変なこと言ってごめん、と湊は素直に謝罪をする。奈落は返す言葉が見つからなかった。
「…フン。まあいい…。
湊とかごめの接点が分かった以上、貴様には存分に働いてもらうぞ」
「…?」
普段通りの笑みを見せた奈落を不思議に思いつつも湊は「任せて!」と胸を張ったのだった。
夕餉を済ませ湊は間借りしている自室に戻ると、はたと思い直す。
「そういえば、何をすればいいのか聞くのを忘れた」
──……。明日の朝聞けば良いかな?
湊はそう考え直すと早々に夜着に着替え床に就いた。
一方。
そのころ奈落は湊が発した言葉が気にかかり自室で一人物思いに耽っていた。
湊が発した「半妖だとダメなの?」という言葉が奈落にはどうしても引っかかる。
あの女は何を言っているのだろうか?
まるで、半妖は居ても良い存在だと言っているようなものだ。奈落にはそう感じられたのだ。
様々な人物の姿を借りて奈落はこの50年を生きてきた。
その間に小生意気にも自分を退治しようとする人間は居り、奈落はそれを相手にしてきた。
50年間半妖であることは知られずにいたが、そろいもそろって人間どもは邪妖として退治すべきと狙ってきた。それを悉く返り討ちにしてやった。
人間は愚かで浅ましい生き物。今までそう思って奈落は生きてきた。
だが湊は今まで出会ってきた人間とは趣が違うようである。
「……」
奈落は徐に立ち上がると部屋を後にした。
向かう先は湊の部屋。時刻は三更の頃。
音もなく部屋に入ると奈落の目的の人物、湊はぐっすりと眠っていた。
「………」
月明かりの中、何の警戒をすることもなく安眠に身を委ねている湊を奈落はじっと眺める。
ふと、湊が寝返りを打つ。奈落に背を向けむにゃむにゃと口元を動かす。何やら夢を見ているようであった。
湊の長い髪が、彼女が身じろぐたびに奈落の指先に当たる。
「………」
奈落は暫く湊の様子を伺ったのち、呑気に睡眠を楽しみ起きる気配のない湊を尻目に部屋を後にした。
翌朝。
「そういえば、私はこれから何をすれば良いのかな?」
奈落の朝食を代わりにたいらげた湊は、昨日聞き忘れていた件を率直に奈落に問うた。
それに対し奈落は湊を一瞥したのみで口を開かない。
「奈落…?」
不思議に思った湊は奈落を見詰めた。
「……その時が来るまでは貴様はわしの傍に居ろ」
「…へ?」
暫くは何もしなくていいって事?と湊が問い返すと奈落は「そうだ」とのみ答えたのだった。
「…なんでまた急に…」
昨日は存分に働いてもらうと言っていたのに翌日には時が来るまで傍に居ろと言う。
「…聞きたいか」
「うん」
どことなく楽しげに口元を歪ませた奈落を見、湊は首を縦に振った。
「最も効果的な時に働かせてやる。心配はするな」
くくくと奈落は笑むとそれきり口を閉ざしたのだった。
移転前初出:2017年10月18日
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