迷子が辿り着く先 第一話 全ての始まり

私、橘湊。
しがないアルバイター。都内にあるお化け屋敷で幽霊役…
つまりは、おどかし役をやっている。

このお化け屋敷、『お化け役が怖い!!!!』と結構評判が良くて、演者としては役者冥利につきる。
……たまに、本物が出てるらしいけどね。

私は残念ながらお目にかかっていないけど。

今日も今日とて、元気に…というか、役になりきってお客さんを驚かし…もとい、おもてなししてます。
毎年、お化け屋敷のコンセプトが変わるんだけど、今年のコンセプトは『妖怪の館』で、展示物の人形は妖怪がディスプレイされていて、
演者は妖怪や、純和風の幽霊に扮してそれぞれ力の入った演技でお客さんを楽しませているの。

メイクとかは演者自身で凝らした化粧になっているけど、
薄暗がりの中でブラックライトで浮かび上がるお化けは迫力があって。
あなたも一度うちのお化け屋敷に来て、涼を堪能しませんか?なーんて。

「おーい!橘!」
「はーい!先輩、なんですか?」
「店仕舞いの時間だから、落し物とかないか順路巡ってこい」
「了解で~す!」
ガガガッピッ!と、無線が入る。
今日の業務終了の合図だ。

「さってと。一巡りしてきますかね」

私はおもむろに、座っていた待機場所から立ち上がると、和服の袂に忍ばせていた
懐中電灯を手に取り、明かりをつけた。

規模的にはあまり大きくない敷地内だが、内部は薄暗く、道幅もそんなに広くない。
営業時間終了後は照明も落ちるため、懐中電灯は必須である。

「今日入ったお客さんは、結構怖がってたからなあ…。
落し物あるかもしれないなあ」
今日は結構忙しかった。今年一番の暑さのせいもあってか、涼しさを求めて冷房の効いている
お化け屋敷に来たお客さんも多い。冷房での涼しさ以上に肝を冷やしたお客さんも結構居るはずだ。

…演者総出で驚かしているのだから。

「よ、橘。おつかれさん!」
「あー、お疲れ様です。先輩、今日も忙しかったですねー」
「まあなあ。お化け屋敷好きなお客も結構来てたらしいぞ?」
順路を逆に巡りつつ、落し物や壊れているところがないか確認していると、
要所要所で待機していた先輩・同僚・後輩がそれぞれ合流して来た。
「こっちは落し物無かったです~」
後輩の女の子はのっぺらぼうのマスクを外して、汗を拭いながらやってくる。
「お疲れ様~」

各々、やれ『今日のお客さんで中々奥まで進んでいかないのが居たなあ』とか
『親子連れん時はちょっと手加減しちゃうよな』とか
業務上の話や他愛もない会話をしながら、敷地面積に似合わず長い順路を
隈なく捜索しながら入り口を目指していた。

そんなときである。

「…ん?あれ?」
また別の分岐点で、私はほの白く光ったような気がして足をとめた。

「んー?どうした、橘」
統括リーダーの先輩が、最後尾に居た私がなかなか来ないのを気にして振り返った。
「いえ、なんか、あっちがちょっと光ったので」
「光っただあ?」
「ちょっと気になるので見てきます」
「あ、おい!」
「湊ちゃん?」
「確認してきたらすぐ戻りますので~」
私はそう言って、みんなの元から離れて、光った場所を目指して歩き出した。

そこに、ガガガッとまた無線が入るのが聞こえる。
「どうした?」
「いえ、橘が、B地点で光る何かが見えたって…」
「湊ちゃんが今確認しに行きました」
ガガガッピッ
「…光るもの?ん?確かB地点って…」
無線から、本部に居る受付担当が口ごもったのが受け取れた。

「あそこ、確か前に本物が出たって言う場所か…?」

──無線を通したそんな会話を耳にしながら私は目的地点を目指す。
が、うっすらと白く光った気がしたが、その光の元となるものが見つからない。

「…見間違いかな…」
はあ…とため息を漏らしつつ私は踵を返し、みんなの居る地点まで戻ろうとした。

と、そのとき。

「……」
背後に、白い着物を着た小さな女の子…髪も真っ白。手には鏡を携えた女の子。
何故こんなところに居るのかは分からないが、私の真後ろに気配無くその子は佇んでいた。

「う、うっわ!び、びっくりした…。
お嬢ちゃん、迷子?家族の方は?そもそも、営業時間終った今の今までここに居たの?」
私は、ある種の異様さを感じはつつも、小さな女の子と目線を合わすために膝を曲げた。

「……」
対して、その子は一言も言葉を発せず、ただ佇んでいた。
「…とりあえず、一緒に本部までおいで?」
私は諭すようにその子の話しかける。だが、やっぱり返事は無い。

ガガガッピッ
「橘?」
戻りが遅いので心配したのか、統括リーダーが無線を飛ばしてきた。
「どうした?」
「いえ、白い着物を着た小さな女の子が居まして。迷子ですかね」
ガガガガッ
「白い着物着た…?おい、そんな子、お客で今日来たか?」
分岐点で待っている同僚達とリーダーは、俄にざわめきだす。
「いんやあ、今日は和服着た子なんて見てないぞ?」
「あたしもみてないです」
「じゃあ、橘のところに居るのは…?」
ざわざわ、がやがや、喧々囂々。
あちらはほんのりと恐怖感を覚えているようで。
さらに、徐々に無線の具合も芳しくなくなってきていた。

「…?は?皆見た覚えないの?」
どういうこと?と私は首を傾げるしかなかった。

「…」
すると、そこで初めて、渦中の子が口を開いたような気がした。
「…え?なに?」
あまりにも小さい声だったので私は聞き取れず、耳を寄せて再度、語りかける。
「…たましい…ちょうだい」
「……は?」
…たましい?

そこで、無線が完全におかしくなった様で。

───ガガガガガガガガガガガッ
───キュイイイイイイイイイイイッ
───ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイッ

けたたましく無線音が耳元で炸裂したかと思うと、あまりの轟音で一瞬頭の中が真っ白になった気がして。

私は意識を手放していた。

移転前初出:2014年11月29日

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