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	<title>常しえの思い | 深淵</title>
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	<description>二階堂悠理が管理する非公式二次創作夢小説サイト。夢小説に理解のない方は閲覧は非推奨。</description>
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	<title>常しえの思い | 深淵</title>
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		<title>──こめられたる言の葉 ──</title>
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		<dc:creator><![CDATA[二階堂悠理]]></dc:creator>
		<pubDate>Thu, 04 Jul 2024 17:02:24 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[常しえの思い]]></category>
		<category><![CDATA[短編]]></category>
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					<description><![CDATA[　 　 ５の月。長き冬が終わり、春が訪れる。その温かな陽気から更に気温が上がり、初夏の兆しが見え始める。空は澄み渡り、人々は休日ともなれば野山に行楽に繰り出す。麗らかな陽気を過ぎれば、長き雨の期間に入る。雨季の前の囁かな [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>　</p>



<p>　 ５の月。<br>長き冬が終わり、春が訪れる。<br>その温かな陽気から更に気温が上がり、初夏の兆しが見え始める。<br>空は澄み渡り、人々は休日ともなれば野山に行楽に繰り出す。<br>麗らかな陽気を過ぎれば、長き雨の期間に入る。雨季の前の囁かな一時。</p>



<p>５の月とはそういった季節である。</p>



<p>　ここ、ミッドガルズ北東部にある離島も例外ではない。</p>



<p>「…月の半ばともなると、温かいわね」<br>んー…！と軽く背伸びをし、ラトレイアはダオス城内部にある中庭で空を眺めていた。</p>



<p></p>



<p class="has-text-align-center">──こめられたる言の葉 ──</p>



<p></p>



<p>　ミッドガルズ。<br>魔科学を軍事利用のため研究を続けているこの国でも初夏の訪れをことのほか喜んでいた。<br>「…この国は相変わらず賑やかね」<br>単独で久々にミッドガルズを訪ねたラトレイアはぽつりと呟いた。<br>街行く人々は活気に溢れている。ミッドガルズ城にある魔科学研究所で行われ続けている実験の影響は少なからずあるであろうに。<br>…一般には知られていない極秘事項だから、であろうか。<br>そう思いながら、商店街をゆっくりと練り歩く。</p>



<p>　ふと、とある場所に目を奪われラトレイアは立ち止まった。</p>



<p>「おや、いらっしゃい。ゆっくりと見て行ってな」<br>人当たりのよい温和な笑みを浮かべた老紳士が店主なのだろう、そこは、色とりどりな花を陳列している花屋であった。</p>



<p>切り花や植木鉢にアレンジされた寄せ植え、果ては珍しい草花など。<br>さすがは大国ミッドガルズ、その城下町にある花屋といった所か。</p>



<p>「…素敵な花々ですね」<br>ラトレイアが思わず感嘆をもらせば主人は破顔一笑し。<br>「そりゃあ、鮮度も良いからの。ほれ、そこの寄せ植えの管理も行き届いておる。草花は毎日の手入れが命じゃからな」<br>切り花の管理も難しいのじゃがな、と笑いながら答える。</p>



<p>「本当に…。とても生き生きとしてますね」<br>店内をゆっくりと見て回っていると、特にある花の種類がたくさんあることにラトレイアは気付いた。</p>



<p>「…薔薇の品種が一杯ありますね。色も様々…」<br>良い香り…とそれに近付く。</p>



<p>「ああ、今日はローズデーじゃからね。薔薇の需要が高まるから普段以上に仕入れてあるのじゃよ」<br>店主は彼女のそばに来ると、ローズデーの謂われ、薔薇の色や品種、部位、形状によって花言葉が様々あると掻い摘んで説明した。</p>



<p>「例えば、赤い薔薇じゃと愛情・美・情熱。蕾だと純潔、などじゃな。他にもたくさん花言葉はある。<br>白薔薇じゃと約束を守る、無邪気、尊敬などじゃ」<br>「まあ…そんなに色々と言葉があるのですね」<br>「お嬢さんも、今日にちなんで大切な人に贈ってみたらどうかね？花に言葉を託してみてはいかがかな？」<br>店主は穏やかな笑みを浮かべラトレイアを見やった。</p>



<p>「…大切な…」<br>大切な人、と問われ真っ先に浮かぶのは彼の人。</p>



<p>　この世界に来てからずっと、何不自由なく城に滞在させてもらっている。</p>



<p>…尊敬の念が募るばかりである。</p>



<p>「…そうですね。では、この薔薇を」<br>彼女が手にしたのは、白さが美しいグランノワールであった。</p>



<p>ミッドガルズからダオス城にラトレイアは帰館後、小さな花束を携えて、城の最奥部にある城主の元へと歩みを進めていた。</p>



<p>普段ならソーサリスがエントランスで話し掛けて来るのだが、今日はどこかに出かけているのだろう。</p>



<p>　そして、珍しい事に。<br>いくつもの廊下を渡り階段を上りダイニングに辿り着いても城の住人に鉢合わせしなかったのである。</p>



<p>「…皆さん任務かしら？」<br>ラトレイアは小首を傾げつつも更に歩を進め。</p>



<p>いつしか、最奥にある彼の人の部屋の前に辿り着いていた。</p>



<p>「……」<br>さて、なんと言って贈ろうか。</p>



<p>重厚なドアの前に佇み思案を巡らせていると。</p>



<p>「……ラトレイア？」<br>「えっ…」<br>彼女の背後にいたのは、この城の主であるダオスであった。</p>



<p>「我が部屋の前でどうした。何かあったか…？」<br>「い、いえ。…お出掛けでいらしたんですね」<br>てっきり室内にいると思っていたが、予想外の事にラトレイアはこれからどうしたら良いか考え倦ね立ち止まったままでいる。</p>



<p>「ああ…今日は大樹の元へな」<br>さ、入るがいい。と、彼女の背に優しく手を添えダオスは入室を促した。</p>



<p>室内に入ると、ダオスはある香りに気が付く。</p>



<p>仄かに薫る花のそれ。備え付けの花瓶に生けられているものからではないようだ。</p>



<p>となると、一体どこから…？</p>



<p>目線で探り、そして。<br>彼は答えを見つけた。</p>



<p>「…ラトレイア？」<br>どことなく落ち着かない様子の彼女を気遣いダオスは優しく声をかけた。</p>



<p>その声に対し彼女は微笑みを浮かべた。なにやら意を決したようである。</p>



<p>「あの、ミッドガルズに出向いた時に…ですね。綺麗な花を…買ってきたので、ダオス様に」<br>どうぞ、と、仄かに薫る瑞々しい白薔薇で作られた小さな花束を彼女は手渡した。心なしか、その頬は朱に染まっている。</p>



<p>「…私に？」<br>「はい、いつもよくして頂いておりますし、囁かではありますが」<br>はにかみながら彼女は言葉を続けた。</p>



<p>「…そうか。感謝する」<br>…良い香りだな。</p>



<p>ダオスは己の手元にある花束に目を細め。</p>



<p>　白薔薇はラトレイアのようだと思うのであった。</p>



<p>「…私からも、君に贈りたいものがある」<br>そう言うとダオスは花束を執務で使っている机の上にそっと置くと、どこにあったのだろうか。<br>赤い薔薇を手に持っていた。</p>



<p>「大樹のある森で行商人に会ってな」<br>樹を害する者なら追い払おうと思っていたがそうではなく。<br>更には、魔王と気付く事もない。</p>



<p>　一輪だけ買ったのだ。</p>



<p>そう言いダオスは彼女に手渡した。</p>



<p>「あ、ありがとうございます…」<br>思いもよらない贈り物にラトレイアは更に頬を赤く染め上げた。</p>



<p>　それは、どの意味で朱に染まったのか。</p>



<p>愛情にか、情熱にか。<br>そして、ダオスは何故白薔薇を彼女のようだと思ったのか。</p>



<p>その答えは、当人達のみぞ知る。</p>



<p>　 薔薇よ、薔薇よ。その身に幾つもの言葉を秘め。<br>御身に込められし想い、誰に捧ぐ？</p>



<p class="has-text-align-right">携帯サイト初出日：2012年5月14日 了</p>
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		<title>Il presente del giorno sacro</title>
		<link>https://www.shinen2014.website/wp/2024/07/04/il-presente-del-giorno-sacro/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[二階堂悠理]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 03 Jul 2024 17:24:17 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[常しえの思い]]></category>
		<category><![CDATA[短編]]></category>
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					<description><![CDATA[「あら、何かしら…」寒さが厳しいミッドガルズ大陸北部。大陸の端にある橋を渡った更に先にある離島にそびえる古城。 　人々が魔王として恐れる者の居城、そして、魔族がその存在を隠れ蓑に利用し暗躍・潜伏しているその場所。 暦の上 [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>「あら、何かしら…」<br>寒さが厳しいミッドガルズ大陸北部。大陸の端にある橋を渡った更に先にある離島にそびえる古城。</p>



<p>　人々が魔王として恐れる者の居城、そして、魔族がその存在を隠れ蓑に利用し暗躍・潜伏しているその場所。</p>



<p>暦の上では春が始まっているが、未だ続く春寒のある朝。</p>



<p>ダオス城に身を寄せるラトレイアが目を覚まし、軽く身支度を済ませた後に寝室から扉を隔てた先に続く隣室へ向かうと目に入ったもの。</p>



<p>それは、卓子上に置かれた芳しい薫りを放つ１ダースの花束。そしてそこに添えられたシンプルだが格調高い装飾が施されたメッセージカードであった。</p>



<p></p>



<p></p>



<p class="has-text-align-center">───Il presente del giorno sacro───</p>



<p></p>



<p></p>



<p></p>



<p>「まあ…！素敵な花束…！<br>いい香り…」<br>ラトレイアはブーケを手に取ると、生花から漂う薫香に思わず目を細めた。<br>暫くして、添えられたカードを開ける。</p>



<p>そこには、差出人の名は記載されていなかった。</p>



<p>「まあ…？一体どなたが下さったのでしょう？」<br>送り主が分からないことには、お礼のしようがありませんし…</p>



<p>彼女がそう思案していると。</p>



<p>「ラトレイアちゃんおっはよー！起きてるー？」<br>朝から元気一杯なソーサリスがやってきた。</p>



<p>「あ、ソーサリスさん。おはようございます」<br>今日は朝からご機嫌ですね。何か良い事でもあったのですか？</p>



<p>ラトレイアは花束から目線を彼女へ移すと、その面に笑みを浮かべる。</p>



<p>「んー？別段、変わったことはないよー？<br>それよりも、はいコレ！いつもありがとう！」<br>ソーサリスは彼女の問いに小首をかしげつつも答えると、懐から小さな包みを取り出しラトレイアへと手渡した。</p>



<p>「今日はバレンタインだからねー！感謝の気持ち」<br>お菓子だけど、お茶の時間にでも食べてね！</p>



<p>そういうと彼女はラトレイアの手にあるブーケに目を留めた。<br>「わあ…！素敵だね、誰からの贈り物？」<br>「それが…。差出人が分からないのです」<br>「メッセージカードは？」<br>「あることにはあるのですが…お名前が無くて」<br>「そっかー…。カードの中身を私が見るわけにもいかないし…。<br>あ、でも、誰からの物なのか、考えるのも楽しいと思うよ？」</p>



<p>ソーサリスは、贈り主不明のプレゼントのお礼をどうしようかで悩んでいる彼女に「あまり深く考え込まないで、贈り主が誰なのか想像できる粋な計らいに乗ってみたら？」とアドバイスを施した。</p>



<p>　ところ変わって、ダオス城内にある食堂。<br>現在の時刻は下午を過ぎた頃。</p>



<p>ラトレイアはバレンタイン用にお菓子を作り終え、しばし小休止していると。<br>「おや、こちらにいらしたのですか…」<br>「律儀に、住人全員への贈り物を作っていたの？」<br>たまたま城に帰館していたのであろう、デミテルとジャミルがラトレイアの元へとやってきた。</p>



<p>「あ、おかえりなさい。<br>…？どうかしたのですか？」<br>何処と無く落ち着きのないように見えるデミテルに違和感を覚え、ラトレイアは小首を傾げるとジャミルは笑うのを堪えるような面持ちになりつつも、己の同僚デミテルを振り返る。</p>



<p>ジャミルは内心ではこの事態を楽しんでいるのであろう。「早くしろ」といわんばかりに彼に目配せすると、デミテルも観念したのか。</p>



<p>「貴女にこれを…と思いましてね」<br>どこから取り出したのか、彼は小箱をラトレイアの掌へと手渡した。<br>「ラトレイア、以前香りに興味を持ってたようだからさ。<br>あたしとデミテルから。サシェなんだけど、良かったら使ってみて」</p>



<p>意外な人から意外な贈り物にラトレイアは目を丸くし、その後破顔一笑した。<br>「ありがとうございます、早速使わさせて頂きますね」<br>お礼に、お菓子をどうぞ。</p>



<p>そう言い彼女は二人にそれぞれ包みを手渡す。</p>



<p>「別に。…いつも貰ってばかりでは気が引けたものですから。<br>他意はありませんよ」<br>精一杯強がるデミテル。それを尻目にジャミルは笑い声を噛み殺すように肩を震わせた。</p>



<p>「？」<br>彼らの様子を不思議に思ったラトレイアは小首を傾げる。</p>



<p>他意とは何のことだろう、と。</p>



<p>「ああ、別に疚しいことじゃないし、気にしなくて良いわよ？」</p>



<p>彼の余計な言動により思案にふける彼女に気付き、さり気なくデミテルをフォローしながら、ジャミルはラトレイアにヒソヒソと楽しげに耳打ちをした。</p>



<p>「はあ…」<br>きょとんとした面持ちで、食堂から去っていく二人を見送るラトレイアであった。</p>



<p>　夕刻。<br>食堂から場所を移し、ラトレイアは城内のある場所に向かいながら考え事をしていた。</p>



<p>──花束の贈り主は一体…？</p>



<p>今日出会った住人の行動から察すると、彼等ではないことが何とはなしに想像が出来る。</p>



<p>──まさか…、いえ、でも…</p>



<p>想像できる人物はただ一人しかいない。</p>



<p>　それを思っただけでラトレイアは顔が見る間に朱に染まっていくのが自分でも感じ取れた。</p>



<p>思案を巡らせつつ歩いていると、いつの間にか目的の場所に彼女は辿り着いていた。</p>



<p>荘厳な扉を前に、深呼吸をひとつ吐くとラトレイアは意を決してノックをする。<br>すると、やや間を置いて返ってくる部屋の主の声。<br>「…入りなさい」</p>



<p>　その声音は普段よりも優しいものであった。</p>



<p>「失礼します…」<br>その声に導かれるかのようにラトレイアは部屋へと進んでいく。</p>



<p>目的の人物に辿り着いたは良いが、ブーケについて尋ねてもよいものか悩む彼女はどう切り出すべきか内心では思い惑っていた。</p>



<p>「…？一体どうしたのだ？」<br>普段の彼女とは若干違い、どこかそわそわとした様子に気付いたダオスは優しくラトレイアに問いかける。</p>



<p>「え…と、はい。あの…」<br>どう返したらよいものか。<br>未だ決心がつかないラトレイアは目線を泳がせつつも、どう言葉を紡ごうか必死に考えを巡らせていた。</p>



<p>「……？」<br>何やら思い悩んでいるかのような素振りの彼女を不思議に思い、とりあえず、立ち話もどうかと考え、私室に備え付けのソファーに座るように促すとダオスはラトレイアが落ち着くまで暫し彼女の隣で待つことにした。</p>



<p>「…ええと…」<br>こう言う事をお聞きしても良いか、迷ったのですが…</p>



<p>と、意を決したかのように彼女は語りだした。<br>どうやら、何かの覚悟を決めたようである。</p>



<p>「…なんだ？」<br>ダオスは続きを促すかのように、しかしその表情はとても穏やかに相槌を打つ。</p>



<p>「あの…。今朝、部屋に…ですね。素敵な花束が届いていまして。<br>メッセージカードもあったのですが、お名前が無かったのですが…。その…」<br>彼女はそこで一旦目線を伏せ、間を置く。そして、上目遣いに彼を見詰め</p>



<p>「素敵なブーケとカード、ありがとうございました、ダオス様…」<br>そう言い終えるとラトレイアは、そっと。<br>ダオスの肩に己の頭を凭れかけさせた。</p>



<p>　彼女のその言動にダオスは一瞬瞠目したが、己のプレゼントであった事に気付いてもらえたのだなと安堵し、彼女の気持ちに応えるかのようにラトレイアの肩を優しく引き寄せた。</p>



<p>「…いつも、側にいてくれてありがとう。<br>感謝している」<br>そうダオスが囁けば、彼女はたちまのうちに顔を真っ赤に染め。</p>



<p>「こちらこそ…いつも助けていただいてばかりで…」<br>本当に、ありがとうございます…。</p>



<p>ラトレイアは己の身をダオスに委ねたのであった。</p>



<p>　カードに書かれていたメッセージ、それは…</p>



<p>『いつも支えてくれて感謝する。<br>これからも、共に居て欲しい』</p>



<p>　このメッセージは、彼等２人だけの秘密であった。</p>



<p class="has-text-align-right">携帯サイト初出日：２０１１年２月１５日　了</p>
<div class="ifw_wrap ifw_left"><button class="ifw_btn" data-postid="969" data-buttoncount="4"><span class="material-symbols-rounded">sign_language</span><span class="ifw_count" id="ifw_count_969_4">0</span>拍手</button><div class="ifw_message_wrap ifw_top_left" id="ifw_message_969_4"><div class="ifw_message"><div class="ifw_text"><p class="ifw_processing">送信中です</p></div></div><div class="ifw_arrow"></div></div><div class="ifw_message_wrap ifw_top_left ifw_thanks" id="ifw_thanks_969_4"><div class="ifw_close" data-id="969_4">×</div><div class="ifw_message"><div class="ifw_image"><img decoding="async" src="" id="ifw_image_969_4"></div><div class="ifw_text" id="ifw_showmessage_969_4"></div><div class="ifw_comment"><textarea class="ifw_textarea" id="ifw_comment_969_4" placeholder="(　ﾟ∀ﾟ)o彡°"  maxlength="500"></textarea><p class="ifw_memo">※コメントは最大500文字、5回まで送信できます</p><div class="ifw_send_wrap"><button class="ifw_send" id="ifw_send_969_4" data-postid="969" data-buttoncount="4">送信</button><div class="ifw_sending_wrap"><span class="ifw_sending" id="ifw_sending_969_4">送信中です</span><span class="ifw_sent" id="ifw_sent_969_4">送信しました！</span></div></div></div></div><div class="ifw_arrow"></div></div></div>]]></content:encoded>
					
		
		
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		<item>
		<title>Many a true word is spoken in jest</title>
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		<dc:creator><![CDATA[二階堂悠理]]></dc:creator>
		<pubDate>Mon, 01 Jul 2024 17:38:25 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[常しえの思い]]></category>
		<category><![CDATA[短編]]></category>
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					<description><![CDATA[　 　長き冬も終わりを告げ、草花が芽吹きだす季節。 春。空気も幾分温かみを帯び、心も軽く弾みだす、そんな時節。 　雪に覆われている期間が長いミッドガルズ大陸北部も例外ではなく。 ここ、ダオス城にも春の訪れが感じられるよう [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>　</p>



<p>　長き冬も終わりを告げ、草花が芽吹きだす季節。</p>



<p>春。空気も幾分温かみを帯び、心も軽く弾みだす、そんな時節。</p>



<p>　雪に覆われている期間が長いミッドガルズ大陸北部も例外ではなく。</p>



<p>ここ、ダオス城にも春の訪れが感じられるようになっていた。</p>



<p></p>



<p class="has-text-align-center">───Many a true word is spoken in jest───</p>



<p></p>



<p>　４の月の始まりの日。時刻は上午。ぽかぽか陽気に誘われて、ラトレイアは己にあてがわれた部屋を出ると長い廊下を歩き、エントランスホールを目指していた。</p>



<p>「今日は本当に穏やかな天気…。久しぶりに、外出時に外套がなくても大丈夫そうね」<br>ラトレイアは廊下にある窓から外を眺めそう呟くと、また歩みを進める。</p>



<p>歩き出して幾数分。丁度食堂のある辺りの廊下で、彼女はよく見知った姿と出くわした。</p>



<p>「あら、ラトレイアじゃない。おはよう」<br>「最近はよく眠れていますか？」<br>ジャミルとデミテルである。どうやらブランチを終え、談笑しながら自室に戻るところのようであった。</p>



<p>「お２人とも、おはようございます。<br>はい、最近は魘されることもありませんので大丈夫のようです」<br>何故だか優しい口調のデミテルに一瞬と惑ったものの、ラトレイアは質問に受け答える。</p>



<p>「そうですか、それは良かった」<br>デミテルは柔和な笑みを浮かべ相槌を打つ。<br>その姿に微妙な違和感を覚えラトレイアは頭上に疑問符を浮かべたかのごとく小首を傾げた。</p>



<p>　彼の隣に佇むジャミルはといえば、何故だか口元が綻んでいる。<br>それは笑い出しそうなのを必死で堪えているといった風貌であった。</p>



<p>「…何かあったのですか？ジャミル、とても楽しそうですね」<br>「え？ああ、ごめんごめん、気にしないで」<br>口元を押さえながら、彼女の質問に応えるジャミルはやはりどこか楽しげである。<br>「？」<br>訝しげに彼女を眺めるラトレイアをよそに、ジャミルはデミテルに対し目配せすると、それに気付いた彼は一つため息をつくと、意を決したかのように口火を切った。</p>



<p>「ラトレイア、ちょっと話があるのですが」<br>「…？<br>なんでしょう？」<br>デミテルに問いかけられ、ラトレイアは彼に向き直る。</p>



<p>「付き合って欲しいのですけれど…」<br>彼女の目線にあわせ己の体を屈め、そう告げたデミテル。それに対しジャミルはラトレイアの反応を今か今かと待ち侘びているかのように状況を見守っていた。</p>



<p>「…？はい、別に構いませんが。何所へ行かれるのですか？」</p>



<p>彼女のその発言に、ジャミルは『思った通りの反応』とばかりにデミテルを見やる。<br>哀れみを籠めた眼差しではあるが、それでもジャミルはこの状況を楽しんでいるようだ。</p>



<p>「今日はお天気も良いですし、お散歩したくなりますよね。<br>でも、珍しいですね。デミテルが誘ってくるなんて」<br>彼の発言を素直な意味で捉えたラトレイアは「私も散歩に出かけるつもりだったのですよ」とにこやかに話しかける。</p>



<p>「…もうダメ、我慢できない…！」<br>肩を震わせながらも必死で笑いを堪えていたのだろう、今まで静観していたジャミルは笑い袋を押したかのように声を上げて笑い出した。</p>



<p>「あはははははははは！もう、ほんっと最高！」<br>笑いすぎて涙が出てきた…</p>



<p>そう言いつつも彼女は笑うことを止めない。</p>



<p>「？？」<br>唐突に笑い出したジャミルに戸惑い、ラトレイアは訝しげに彼女を見やった。<br>「あーもう本当に、あなたって人は期待を裏切らないでくれて嬉しいわ。<br>これからもそのままでいてね？」<br>ラトレイアの反応に気を良くしたのか、ジャミルは彼女の肩に手を添えうんうんと頷いた。</p>



<p>「は、はあ…」<br>何が何やら、状況が掴みきれないラトレイアは相槌を打つことしか出来ず唖然としている。</p>



<p>「…何やら談笑しているようだが……<br>好いことでもあったのか？」<br>食堂へ向かう途中だったのか、はたまた食事を終え、自室へ戻る道すがらであったのか。</p>



<p>ダオスが３人の許へとやってきていた。</p>



<p>「おはようございます、ダオス様」<br>「ラトレイア、おはよう」<br>彼女の挨拶に応え、ダオスは穏やかな笑みを浮かべ、ラトレイアをそっと抱きしめると彼女の頬に軽く口付けを落とす。</p>



<p>「！」<br>その様子を見てデミテルは刹那ではあるが面を強張らせる。それに相反し、ジャミルは『ご愁傷様』と彼に囁いた。</p>



<p>「…して、一体何があったのだ？」<br>先程まで笑い崩れていたジャミルに、ダオスは状況を説明せよと話を促す。</p>



<p>「いえ、特にご注進するほどでもないのですけれどね。<br>今日が何の日かご存知でしょうか？」<br>この世界に来て日も経つ主君に、ジャミルは問いかける。</p>



<p>「今日は…<br>成程…」<br>得心したといわんばかりにダオスは頷き、ジャミルを眺め『彼女に実行したというのか？』と視線で問いかけた。</p>



<p>　それに応えるかのようにジャミルは首を縦に振ると<br>「デミテルが…ふふふ…あははは！」<br>先程の光景を思い出し、彼女はまた笑い崩れる。</p>



<p>「──っ？！<br>ちょっ、貴女何を言ってるんですか？」<br>同僚のまさかの行動にデミテルは一瞬で血の気が引く思いをした。</p>



<p>　この『同僚のまさかの行動』とは、彼等の主にいけしゃあしゃあとネタバラしをしてしまった事である。<br>「…貴女、楽しんでいるでしょう？」<br>デミテルが恨めしそうにジャミルを睨めば<br>「勿論」<br>彼をからかうようにジャミルはほくそ笑んだ。</p>



<p>「…それで、デミテルになんと問われたのだ？ラトレイア」<br>「？！」<br>ダオスのまさかの発言にデミテルは「しまった！」と顔色を曇らせる。</p>



<p>　ラトレイアに、口止めしていなかったので、筒抜けてしまうのは必至。<br>デミテルは、いかにしてこの難局を退けようかと脳内ではフル回転で算段をはじき出す。</p>



<p>「はい、お散歩に付き合わないかとお誘い頂きました」<br>ラトレイアは「付き合って欲しい」を「出かけるので一緒に来ませんか？」に変換して受け止めていたようで。<br>「ですので、私も散歩に出かけるところでしたので、了承したところだったのです」<br>なんら疑問を抱くこともなく、ラトレイアはダオスに話して聞かせた。<br>「……ほお…？」<br>彼女の言葉にダオスは「どうやら手酷い嘘を言われたわけではない」ということを理解し、また、デミテルが本当は何を言いたかったのかを把握し、目を細めつつも彼に視線を投げかける。</p>



<p>　デミテルはというと、そんな主の視線に耐えつつも、何所となく所在無さげであった。<br>蛇に睨まれた蛙状態、といったところか。</p>



<p>「デミテル」<br>「…は」<br>君主からの叱責が来るかと思い、彼は目をそらしたのだが。<br>「余も共に行くぞ。<br>大樹のある森までついて参れ」<br>ダオスのその言葉に一瞬にして冷や汗を流すはめになったデミテルであった。</p>



<p>「ご、ご冗談を。<br>我々魔族は大樹の側までは…」<br>「あそこはマナに満ち溢れていますゆえ、どうかご勘弁を…」<br>己も巻き添えを喰らいそうな雰囲気に耐えかねたジャミルが嘆願し、それに便乗するかのようにデミテルも言の葉をつむぐ。</p>



<p>「だからだ。<br>大樹のある森までと言ったであろう？」<br>──…何も大樹の許まで来いとは言うてはおらぬ。</p>



<p>そう告げるとダオスはラトレイアの手を取り、空間転移を行う所作を見せると『我に従えば、ラトレイアを騙そうとしたことは不問に付す』と彼等従者に目線で語りかけ。</p>



<p>「…御意」<br>観念したかのようにデミテルは主の作り出す空間に歩みを寄せつつ、ジャミルの首根っこを引っつかみ「逃がしはしませんよ？」と素早くジャミルに耳打ちすれば</p>



<p>「ちょっ？！あたしも？？！」<br>それは勘弁してと地団駄を踏みつつ抵抗したものの、ダオスの睥睨に観念し渋々ついて行く事を了承する羽目になったのであった。</p>



<p class="has-text-align-right">携帯サイト初出日：２０１０年４月６日　了</p>



<p>■おまけ■</p>



<p>　ちなみに、彼等魔族が食堂で交わしていた話はどういった内容だったかというと。</p>



<p>「…そういえば今日はエイプリルフールね」<br>どこか楽しげな口調でジャミルは己の同僚、デミテルに話しかけた。</p>



<p>「ああ、そのようですね。<br>でも、我々魔族にとって嘘は日常茶飯事ですから今更じゃないですか？」<br>嬉々としてどういった嘘をつくか考えているジャミルに対し、デミテルは殊の外冷静である。</p>



<p>「ちょっと、あんたノリが悪すぎるわよ。<br>普段なら非難されても今日は午前中に限ってはお咎め無しなのよ？」</p>



<p>あまり乗り気じゃないデミテルの態度にいささか呆れたジャミルは、『信じられない、あんたそれでも魔族？良識派気取ってんの？』といわんばかりの剣幕で批難した。</p>



<p>　ひとしきり、ジャミルがデミテルに対し悪態をついた後。</p>



<p>「…！<br>ふふふ…いいこと思いついた」<br>デミテルの顔を眺めつつ彼女はほくそ笑み、そして。</p>



<p>「デミテル、あんた、ラトレイアに『付き合わないか』って言ってみたらどうなると思う？」<br>突拍子もないことを言ってのけたのである。</p>



<p>「…はあ？<br>貴女何言ってるんですか」<br>──…貴女の思いつきは嫌な予感しかしませんが？</p>



<p>十中八九、断られるだろうに。<br>何をさせたいのだか…。</p>



<p>ジャミルの唐突な発言にデミテルは眉根を寄せ、彼女に背を向けた。</p>



<p>「これはいい退屈しのぎになりそうだわ。<br>早速、ラトレイアを探しましょう！」<br>さあさあさあ！</p>



<p>有無を言わさぬ、ある種の異様な雰囲気でまくし立てられ、デミテルはジャミルの発案を実行せざるをえなくなったのであった。</p>



<p>おまけ、完。<br>（携帯サイト初出日：２０１０年４月６日）</p>
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		<title>───Una fragranza dolce a te───</title>
		<link>https://www.shinen2014.website/wp/2024/07/01/una-fragranza-dolce-a-te_20240701/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[二階堂悠理]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 30 Jun 2024 17:03:48 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[短編]]></category>
		<category><![CDATA[常しえの思い]]></category>
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					<description><![CDATA[城内のとある一室に大勢が集い、勤務を終えた者達が団欒を楽しんでいる。その部屋には大きな食卓があり、城の住人は思い思いに寛いでいた。 　もその場に混じり、談笑したりしていたのだが。ふと、会話の輪から離れ一人水を飲んでいたと [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>城内のとある一室に大勢が集い、勤務を終えた者達が団欒を楽しんでいる。<br>その部屋には大きな食卓があり、城の住人は思い思いに寛いでいた。</p>



<p>　ラトレイアもその場に混じり、談笑したりしていたのだが。<br>ふと、会話の輪から離れ一人水を飲んでいたときのこと。<br>「…あら…？」<br>ラトレイアは何かを感じ小首を傾げた。</p>



<p>どこからか、仄かに香る余薫。<br>落ち着いて気品があり、そして、透明感のある洗練されたそれ。</p>



<p>その香気は繊細でありながらとても爽やかでシンプルなもの。<br>「この香りは一体どこから…？」<br>不思議に思いながらも、ラトレイアが清香の元が気になり、それは何処なのかを辿ろうと席を立ち振り向けば、そこにはデミテルがいた。</p>



<p>───Una fragranza dolce a te───</p>



<p>「…！」<br>ラトレイアは、背後に佇むデミテルに気付き、軽く息を呑んだ。<br>先程まで後ろには誰も居なかったのだが、いつから其処に居たのであろうか。全く気配が感じられ無かったのである。<br>「…？何か？」<br>振り向き様に驚かれ、怪訝そうな顔をして彼は訊ねた。<br>デミテルとしては、驚かれるようなことをしたつもりは全く無いため当然といえば当然な疑問である。<br>つい先程、任務を終えてこの場所に戻ってきたのだから。</p>



<p>そう、デミテルがラトレイアの背後に居たのは偶然の出来事だったのである。だが、彼女にとっては突然己の後方に現れたように思えたのだ。</p>



<p>「いえ、ただ…」<br>「ただ？」<br>何やら思案するかのような面持ちのまま語りだす彼女の言葉を待ち、続きを促すようにデミテルは問い掛ける。</p>



<p>すると、彼女の口から思いもよらない話が語られた。</p>



<p>「ただ…<br>いい香りがするな…と思って、振り向いたらデミテルが居てちょっと驚いただけなの」<br>ごめんなさい、とラトレイアは素直に謝罪を述べた。</p>



<p>「別に謝らなくても構いませんが…」<br>素直に謝られることに慣れていないデミテルは、彼女の言葉に多少むず痒くなったがそれは悟られないように取り繕う。そして<br>「私の香りが気になったのですか？」<br>彼はラトレイアをからかう様にニヤリと口角を少し上げ、彼女に顔を近づける。<br>デミテルとしては、普段から任務以外では自分の好む香りを纏っているのだが、彼女はそれに今まで全く気付かなかったようである。</p>



<p>　…まあ、職務で城を後にすることが多いデミテルとしては、残り香などに極力気を遣っていたため、ラトレイアがこの己の香りに気付いた事に関しては内心目を見張ったのだが。</p>



<p>「そう…ですね、いい香りだったので、どこからするのかなと気になったのは事実です。<br>でも、意外でした」<br>「どういう意味です」<br>意外と言われ、デミテルは腑に落ちないといったようにラトレイアの隣の席に腰を下ろす。<br>「任務で外出することが多いデミテルが、香りを纏っていたなんて」<br>「まあ、そうですね。己を特定させる香りは、はっきり言って責務に支障が出ますから。<br>私の場合は、しばらく任務がない時にしかつけませんけどね」<br>そう言って、デミテルはラトレイアの顔を眺めた。<br>「そうなのですか…。<br>あれ、でも…」<br>ラトレイアは少し思案すると、ふと疑問に思ったことが１つ脳裏をよぎる。それをそのまま彼に質問した。<br>「ジャミルはいつも甘い香りがするけど…」<br>──彼女は、任務に支障が出たりしないのかしら？</p>



<p>「…ああ、ジャミルは良いんですよ」<br>「何故？」<br>不可思議な話だと言わんばかりにラトレイアは小首を傾げれば、２人の背後に見知った薫りと共に１つの気配が現れる。</p>



<p>それは、服務の経過報告のため久々に帰館したジャミルであった。<br>「あら、珍しい。ラトレイアがデミテルと談笑してる」<br>同僚をからかうかのようにジャミルは声をかけると<br>「何をそんなに話し込んでいるの？」<br>と２人に問いかけ、ラトレイアを挟むように、デミテルとは反対側に腰かけた。</p>



<p>「今ね、香りの話をしていたの」<br>彼女の質問に答えるようにラトレイアはジャミルを見詰める。その言葉に驚いたジャミルは要約された言葉に付いて行けず、僅かに眉を顰める。そして一言。<br>「香り？」<br>鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔をし、素っ頓狂な声を上げた。<br>「ちょ、ちょっと待って話が掴めない」<br>困惑したジャミルは、もう少し詳しく知りたいとラトレイアを見やる。</p>



<p>「あ、ごめんなさい、要約しすぎましたね。<br>デミテルからいい匂いがしたので、ちょっとビックリしたと言うか。そこから、香りの話をしていたのです」<br>「へえ～…」<br>全くもって意外だとばかりにジャミルは己が同僚の顔を盗み見、そして目線をまたラトレイアに戻した。<br>「ジャミルはいつも甘い香りがするけど、任務に支障は出ないの？」<br>先程から気になっていたのであろう、彼女はデミテルに質問していた疑問を当人にぶつけたのだった。<br>「ジャミルは良いって、デミテルが言っていたのだけれど…」<br>とても興味深そうにラトレイアはジャミルの方へ顔を寄せると目を閉じ、仄かに香る、オリエンタルでいて甘い芳香を嗅いだ。</p>



<p>「ああ…デミテルが言うようにあたしはいいの。<br>むしろ、仕事がやりやすい」<br>彼女の珍しい行動に微笑んだあと、ジャミルは得意げな顔をし<br>「あたしは傀儡の術を使う時に役に立ってるから」<br>あ、安心して、あんたには傀儡の術は使わない<br>と、言葉尻を追えた。</p>



<p>「はあ…香りにも色々あるのですね」<br>感心したかのようにラトレイアは頷くと、更に思ったことを口に出す。<br>「ダオス様も、仄かに良い薫りがしますし」</p>



<p>眠れないときに、時々であるがラトレイアはダオスの寝所を訪れ、一夜を共に過ごす。<br>それは、ただ添い寝をしてもらうだけなのだが、その時に薫る芳しい森の香りに安堵感を覚えるのだった。</p>



<p>「ラトレイアだって、香水つけてるじゃない。瑞々しい花の香りがするし…」<br>「…？そうですか？<br>私、香水など持っていないのですけれど」<br>ジャミルの言葉に驚いたラトレイアは目を丸くし、怪訝そうに彼女を見やれば<br>「そうなんですか？私も、ジャミルと同じように感じていたのですが」<br>デミテルまでもが意外そうに声を上げた。</p>



<p>「デミテルまで…」<br>心底驚いたというようにラトレイアは瞠目した。<br>一体どうしたというのだろうか。自身は香水など身につけたことがないのに。</p>



<p>「ははーん、なるほど…」<br>ジャミルはしたり顔で呟けば、デミテルも察したのか「なるほどね…」と言葉を漏らした。</p>



<p>「え？」<br>「いーのいーの。こっちの話」<br>ジャミルの言動を不審に思いラトレイアが小首を傾げればジャミルはむべなるかなと頷き、デミテルはといえば何やら思案顔である。</p>



<p>「？」<br>２人の態度に、ラトレイアは皆目検討がつかず、首を傾げるばかりであった。</p>



<p>「彼女の香りは、残り香なのですかね…」<br>面白くないというようにデミテルは呟いた。</p>



<p>　今現在、団欒を終えそれぞれ自室に戻ったその後。何故だか己の部屋に居るジャミルが何か言いたげな風情でニヤニヤしている。</p>



<p>「…なんですか、気持ちの悪い」<br>「酷い言い草ね。このあたしに向かって気持ちの悪いだなんて」<br>そう言いつつも、デミテルをからかうかのように未だ表情を崩さずジャミルは同僚の様子を伺った。<br>「……」<br>未だに仏頂面なデミテルを見、盛大なため息をつけばジャミルは言葉を紡ぐ。<br>「そんなに気に入らないなら、間近に迫ったあの日に香水贈ってあげれば？」<br>ラトレイアに似合いそうな物をさ。</p>



<p>「…別に」<br>ジャミルの提案をそっけなくかわすとそっぽを向き、デミテルはそれきり口を閉ざしてしまった。<br>「あっそ。別に良いけど。<br>じゃああたしはもう戻るから」<br>…素直じゃないんだから…と思いながらも言葉には出さず、ジャミルは不憫な同僚に少し同情し、彼の部屋を後にするのだった。</p>



<p>　──あ、そうだ…。我らが君主に一応報告しておくか…</p>



<p>同僚にああ言ったものの、からかい足りないジャミルは、ラトレイアが香水に興味を持っていることを復命とは別に、仮初めの主に注進に向かったのだった。</p>



<p>　世間が色めき立つ日。２の月１４日。<br>アセリア全土はバレンタインデーを迎えていた。</p>



<p>バレンタインデー。元は、ある神を祭る祭日であったり、聖人の記念日であったりするのだが。<br>現在は、恋人や親しい人に日ごろの気持ちをこめて贈り物をする日であったり、女性が男性に贈り物と共に思いを告げる日になっている。</p>



<p>　ラトレイアはソーサリスに教わったこの日の行事の為に、厨房で焼き菓子を人数分調理していた。<br>甘いものが苦手な者が居るかもしれないのを考慮して、甘さを抑えた手作り菓子である。</p>



<p>「…出来た…！」<br>仕上がりは上々。</p>



<p>出来立ての菓子をそれぞれ小分けにし、ラッピングを施し手早く準備を済ませると部屋を出て、いつも世話になっている城の住人達と、己の従者であるヴァルローダに手渡していった。</p>



<p>　行く先々で喜ばれ、ラトレイアは『手作りにして良かった…』と心の底から思う。<br>驚かれたり、照れたり。反応は様々であったが、皆、彼女の心遣いに顔をほころばせ喜びを表してくれたのである。</p>



<p>「さて…と。最後は…」<br>皆に配っていた物とは別に作ったお菓子を持ち、日頃から何かと気にかけてくれるダオスの元へと向かっていった。</p>



<p>　複雑な構造の城内をひたすら歩き続け、城の中枢でもある彼の人…城主であるダオスの居室へと辿り着く。<br>普段であれば、ダオスガードの任に就いているイーヴルロードが、重厚な扉の前に佇み警護しているのだが、休憩時間だということで先程すれ違ったため今は居ない。勿論、その際に贈り物の菓子は手渡し済みである</p>



<p>　──コンコン…<br>荘厳な扉を控えめにラトレイアがノックすると、中からその部屋の主…すなわちダオスの返事がした。<br>「入ると良い…」<br>戸外のラトレイアの気配に気付いていたダオスはとても穏やかな声音で入室を彼女に促すと、それに応じるかのように控えめに扉を開け、ラトレイアは室内に歩を進めた。</p>



<p>「失礼します…」<br>少し遠慮がちに入室しながらも背に手製の焼き菓子を携え、ラトレイアは彼の面前へと進む。</p>



<p>「今宵はどうしたのだ…？」<br>窓から眺める景色は月明かりで照らされてはいるが徐々に闇の色が濃くなっている。時は甲夜といったところか。</p>



<p>　ダオスに問われラトレイアは、心がざわめくというか…心拍は上がりドキドキとするが、それを悟られまいと平静を装いながら己の背後に持っていた贈り物を彼の前に差し出した。<br>「あの…その…いつも色々とお気遣いありがとうございます。<br>お口に合わないかもしれませんが…御菓子を作りましたので…その…」<br>「ラトレイア…君の手製なのか…？」<br>しどろもどろになりつつも、平常を装う彼女を可愛らしく思い、ダオスはラトレイアの手から綺麗に包装された包みを受け取った。</p>



<p>「は、はい…！<br>もし宜しかったら、お召し上がり下さいませ」<br>甘さは控えてあるのですが…と、ラトレイアは彼の口に合うかどうか不安で一杯なのだろう、少し伏し目がちに顔色を伺った。<br>「…ありがとう。その心遣い、誠に感謝する。<br>…今、開けてもよいか？」<br>ダオスは顔をほころばせそう問いかければラトレイアは同じように解顔し<br>「…はい！」<br>受け取ってもらえたのを安堵したかのように表情が和らいだ。</p>



<p>　室内に備え付けのテーブルセットに歩みを進め、ダオスは一対の椅子の片方を引きラトレイアを招き寄せ座らせると、己は彼女の隣に椅子を置き、そこに腰掛ける。<br>そして、綺麗に包装された包み紙を丁寧に解き、小箱を開ければ其処にあるのは彼女手製の焼き菓子…クグロフ。<br>少し小振りのクグロフではあるが、食べやすいように切り分けたのちダオスは一切れ口にした。</p>



<p>作る際に、キルシュヴァッサーを加えてあるのだろう。ビターチョコでデコレーションしたそれは大人の味の仕上がりに。</p>



<p>小振りなのは、飽きなく１人で完食出来るようにと配慮されたのだろう。</p>



<p>「…とても美味だ。<br>ラトレイア、ありがとう」<br>口当たり良い甘さ、それでいて洋酒が程よく効いていて。</p>



<p>作るのに苦心したのではないだろうか。<br>彼女はお酒に弱いのだ。</p>



<p>「本当に、感謝する」<br>ダオスが穏やかな笑みを浮かべ礼を紡げば、ラトレイアは目を輝かせ安堵の表情を浮かべた。<br>「喜んで頂けて、とても嬉しいです」<br>よく見てみるとラトレイアの目尻には涙が滲んでいた。</p>



<p>「…泣くな」<br>「…はい…」<br>安堵感からか涙を滲ませていたラトレイアを気遣い、ダオスは彼女の面に手を添え、目尻に光る雫を優しく指で拭う。ラトレイアは気持ちを落ち着かせようと目を伏せた。</p>



<p>　その仕草に心惹かれたダオスは彼女の目尻に唇を寄せ、伏せられたために零れ落ちていく、拭い切れていなかった涙を吸い取り、そして──</p>



<p>ラトレイアの唇に自身の唇を優しく重ねた。</p>



<p>「…んっ…」<br>突然の口付けに驚いたラトレイアが触れるだけのその感触に微かに声を洩らせば、ダオスは程なくしてその唇を離し<br>「…何も案ずることはないのだ。<br>だから、泣く必要などない」<br>──君のその心尽くし、誠に感謝する。</p>



<p>そう告げダオスが優しく頬を撫で上げれば彼女は恥ずかしそうに頬を赤く染めた。</p>



<p>「…君に渡したい物がある」<br>ラトレイアの顔を見詰め、優艶な笑みを面に浮かべながらダオスは彼女の手を取ると『少しここで待つように』と言い置いて席を立つ。<br>「え…私に…ですか？」<br>不思議に思い同じように席を立とうとすれば、「すぐ戻る」と言い彼女を席に戻るように促し、ダオスは何かを取りに隣室へと姿を消した。</p>



<p>　そして、その言葉通りに数分したのち、折り返す。<br>その手には、シンプルに包装された小さい何かを携えていた。<br>「？」<br>不思議そうにラトレイアは小首を傾げていると、ダオスは彼女の隣に座りなおし<br>「…君にこれを…」<br>そう告げて、ラトレイアの手に乗せ、己の手を優しく重ねた。<br>「…私に？<br>…開けても良いでしょうか？」<br>思いもよらない事態に戸惑い、ラトレイアは手の中を見、その後ダオスに伺いを立てるように眼差しを向ける。<br>「勿論」<br>それに答えるかのように彼が頷けば、『ありがとうございます』とラトレイアは笑み返した。</p>



<p>　包み紙を綺麗に解き、箱をあければ其処にあるのはシンプルながらも存在感のある何か液状の物が収められている小瓶であった。<br>「これは…？」<br>綺麗…と小さく呟いた後、中身を図りかねてラトレイアが疑問を口にすれば、ダオスは小瓶の封をあけ手に取ると、己の手首に一吹きかけ軽く手首をこすり合わせる。そして彼女の首元に自身の手首を軽く擦り付けた。<br>そうすると、仄かに香るは爽やかなグリーンティー。そして、瑞々しい花の薫り。<br>「…いい香りですね…。なんだか心が落ち着きます」<br>──ダオス様が纏っている薫りにとても良く似ている…<br>そう思いながらラトレイアは柔らかな笑みをダオスに向けた。</p>



<p>「君に似合うと思ったのでな。<br>この香水、受け取ってもらえるだろうか？」<br>ダオスは憂いを帯びた眼差しで彼女を見詰め、問いかければ。<br>「…は、はい…あ、あ、ありがとうございます<br>大切にいたします…！」<br>その眼差しで見詰められ、どうしてだか自分でも良くわからないが鼓動が早まり、頬が熱くなるのが感じられたラトレイアは精一杯の平静を装いつつも彼の厚意を受け入れた。</p>



<p>　この日以降、この香水は彼女のお気に入りの品となり、愛用するようになっていたのであった。</p>



<p class="has-text-align-right">携帯サイト初出日：2010年2月13日　了<br>修正：2024年7月1日</p>



<p>■おまけ■</p>



<p>「…片意地張らないで、あんたも香水プレゼントすれば良かったものを…」</p>



<p>　ここは城内にあるダイニングルーム。</p>



<p>　先ほど、バレンタインの贈り物としてラトレイアからそれぞれ菓子を貰ったジャミルとデミテルは示し合わせたわけでもないのに鉢合わせ、お互いの手元を見て彼女からプレゼントを貰ったのを知ると同じ席に腰掛け談笑していた。</p>



<p>「嫌ですよ。<br>どうせ、貴女のことですから？<br>彼にも言ったのでしょう？」<br>ラトレイアが香水を持っていないということを──</p>



<p>「贈り物が被るなんて私は御免です。<br>それに、ラトレイアが勝手に贈ってくれたのです。私がお返しする義理もないでしょう」<br>そう言いデミテルは横目でジャミルを眺めた。<br>「あら、なんだ、分かった？」<br>あははははと彼女はからかうように笑い声を上げた。<br>「それは分かりますよ。一体どれだけの年月の付き合いだと思っているんですか」<br>──全く…。</p>



<p>ため息を1つつくと、デミテルはグラスに注いであったお気に入りのヴォトカを口にした。</p>



<p class="has-text-align-right">おまけ　了。（2010年2月13日）</p>
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		<title>──wiegenlied Rhapsodie──</title>
		<link>https://www.shinen2014.website/wp/2024/07/01/wiegenlied-rhapsodie_20240701/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[二階堂悠理]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 30 Jun 2024 16:58:22 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[短編]]></category>
		<category><![CDATA[常しえの思い]]></category>
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					<description><![CDATA[それは突然の出来事だった。 「…？こんな所に子供…？」 ──wiegenlied Rhapsodie── ダオスガードの任に就いているイーヴルロードは、休憩時間に差し掛かり食堂で軽食をとっていた。 その時である。にわかに [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>それは突然の出来事だった。</p>



<p>「…？こんな所に子供…？」</p>



<p></p>



<p></p>



<p class="has-text-align-center">──wiegenlied Rhapsodie──</p>



<p></p>



<p></p>



<p>ダオスガードの任に就いているイーヴルロードは、休憩時間に差し掛かり食堂で軽食をとっていた。</p>



<p>その時である。<br>にわかに階下が騒がしくなったかと思えば聞き覚えのある声が聞こえたのは。</p>



<p>「またソーサリスが何かしでかしたのか？」<br>何かと騒ぎを起こしがちなソーサリスが脳裏をよぎり、顔をしかめる。<br>「…面倒事でなければ良いが…」<br>溜め息を一つつき、イーヴルロードは飲みかけの紅茶を口にする。<br>その時、彼の横を何かの影がよぎって行った。</p>



<p>「…ん？<br>こんな所に子ど………」<br>─…………。</p>



<p>子供がいる事に気が付いたイーヴルロードは己の目を疑う。<br>「………ブフッ!?」<br>その顔を見るや否や、口に含んでいた紅茶を盛大に吹き出した。</p>



<p>「な…!?ななななな!?」<br>職務上、普段から冷静沈着なイーヴルロードであったがこの時ばかりは周章狼狽した。</p>



<p>「おーい、ラトレイアちゃん!!どこに………って、<br>いたーーーっ!!」<br>先程から探していたのであろう、大慌てでその場に駆け込んできたソーサリスは目的の人物を見つけた途端に大声を上げた。</p>



<p>「…何だか騒がしいですが、どうかしましたか？</p>



<p>あ、お二方、ちょうどいい所に。マスターを見かけませんでし……た…か……？」<br>ラトレイアを探していたヴァルローダも、何故だか賑やかな食堂に立ち寄り、目前の現状に言葉を失った。</p>



<p>「ど、どどどどうなっているんだーっ!?」<br>「マ、マスター!?」<br>目の前にいる人物の異変にイーヴルロードとヴァルローダの叫び声が、静かな城内にこだまする。</p>



<p>何故なのか現時点では明確になっていない。だが、ラトレイアが幼子のような姿をしているのは確かな事。</p>



<p>「ちょっと、出入り口で何集まってるの？」<br>「騒がしいですよ？<br>それに、出入り口を塞がれていてはいい迷惑です」<br>「……」<br>ちょっと一息つきに来たのであろう、いつの間にかジャミルとデミテル、その後ろにダオスもがヴァルローダの背後に佇んでいた。</p>



<p>よほどの事態なのか、ヴァルローダは口をパクパクとさせているのみで一向に動く気配が無い。</p>



<p>「…？」<br>その様子を不思議に思い、ダオスは怪訝そうな眼差しをヴァルローダに向け、彼の視線の先を見やる。</p>



<p>「…ラトレイア？」<br>その視線の先に居たのは、あどけない表情が愛らしい、幼子のような姿をしたラトレイア。<br>見つめられ、キョトンとした面持ちで彼女は小首を傾げた。</p>



<p>「なあに？」<br>名前を呼ばれ、ラトレイアは普段からは全く想像がつかない、天真爛漫な笑顔をダオスに向ける。</p>



<p>その仕草から察するに、どうやら姿だけでなく思惟までもが幼児化しているようだ。</p>



<p>「…ちょっ！えっ!?マスター！<br>子供に戻ってるんですか!?」<br>ヴァルローダは長い間ラトレイアに仕えてはいるが、彼女に側仕えを始めた時には、例えるならば、花盛りな年頃の乙女であったので主の子供時代を知らない。</p>



<p>驚きのあまり今まで固まっていたヴァルローダは、混乱している思考をフル回転させ、やっとの思いで言葉を繋ぐとラトレイアの目線に合わせて身をかがめた。</p>



<p>その表情は、緊急事態なため心なしかこわばっている。<br>「？」<br>ヴァルローダの問い掛けの意味が分からない、といった風にラトレイアは更に首を傾げる。<br>「どしたの？こわいかお」<br>皆が難しい顔をしているのを見て、先程の解顔から打って変わり、『怒ってはイヤ』と言わんばかりに表情を曇らせた。</p>



<p>「ラトレイア…怖がらずとも良い」<br>ダオスは努めて平静に、だが、普段とは違うとても穏やかな笑みで彼女を見つめ、その長身をかがめる。</p>



<p>「…こちらへおいで…？」<br>怯えているようにも見えるラトレイアを気遣い、ダオスは優しく語りかけた。<br>「…？」<br>目をぱちくりとさせながらも、怒っていないのだと理解したのかラトレイアはパタパタとダオスに駆け寄りひしと彼の胸元にすがりついた。</p>



<p>「…で。今回は何故思考まで幼くなったんです？」<br>以前ラトレイアがルーンボトルを誤ってかぶり、姿だけ子供になった事があった事象を思い出したヴァルローダは、事情を知っていそうな人物…ソーサリスに問いかけた。</p>



<p>食堂で鉢合わせた時、ソーサリスの様子がおかしかったのをヴァルローダは覚えていたため、何らかの原因を知っているのではないかと践んだのである。</p>



<p>一同はラトレイアの部屋へ集まると思い思いの場所に腰掛ける。</p>



<p>彼の膝の上には、幼くなったラトレイアがちょこんと腰掛けていた。<br>ヴァルローダに頭を優しく撫でられ、至極ご満悦な表情をし、可愛らしく足をぱたぱたさせている。</p>



<p>「まさか、ルーンボトル絡みって事は…」<br>ないですよね？とヴァルローダは恐る恐るソーサリスの顔を窺った。</p>



<p>それに対し、ソーサリスは酷く申し訳無さそうに眉根を下げ目を泳がせる。</p>



<p>「…どうなのだ？」<br>尋ねられた当人は一向に語り出さない様子に、ダオスは話を促す為問い質した。</p>



<p>ラトレイアを怖がらせないように配慮をしてはいるが、心なしかその口調には気難しい雰囲気が漂っているため詰問される側は内心冷や汗ものだろう。</p>



<p>主君が何にお冠なのかを察したデミテルはソーサリスに目線をやると溜め息を一つつき、やれやれといったように頭を振るとヴァルローダの膝からラトレイアを下ろし、彼らの君主、すなわちダオスの元へと引きぐする。</p>



<p>「う…。ルーンボトルと言えばルーンボトルのような…」<br>問い詰められ、観念したかのようにソーサリスは言葉を濁しつつも答え始める。</p>



<p>「…はっきりしませんね…」<br>少々苛立ちを隠せないのか、デミテルは苦虫を噛み潰したような顔付きをするとソーサリスの元へと歩み出す。<br>「実は…」<br>「実は？」<br>ばつが悪そうに口を開いたソーサリスの言葉に、ジャミルはオウム返しそのままに繰り返す。</p>



<p>「戦に備えて、色々とアイテムを改良出来ないかと思って…試薬品を作っていたんですが…」<br>「ああ、あんたはそういうの得意そうよね」<br>ソーサリスの話にジャミルは思い出したかのように相槌を入れた。</p>



<p>「でですね…ルーンボトルも改良してたんです。<br>その時にラトレイアちゃん、見学してたんですね」<br>「…それで？」<br>デミテルは、一抹の不安を覚えながらも続きを話すように促した。<br>「…はい。それで…その時、分量の配分がまずかったらしく…その…軽い爆発が起きまして…<br>煙が収まったと思ったら…」<br>「ラトレイアが子供になっていた…と」<br>ジャミルはちらりと、ラトレイアを見やるとソーサリスに視線を戻した。</p>



<p>「そうなんです～。私は何ともないのになんでラトレイアちゃんが子供になっちゃったんだろ…」<br>その直後、部屋を出た彼女を捜して城内を歩き回っていたら、食堂で見付けて今に至るんです…とソーサリスは言葉尻を終えた。</p>



<p>直接的な被害を受けるとしたら、薬品を調合していた本人、つまりソーサリスのはず。<br>軽爆発が起きる直前に、試験管は怪しく光を放っていた。</p>



<p>異変を察したラトレイアがソーサリスを庇ったのだろうか。</p>



<p>この事態を引き起こした張本人でもあるソーサリスも、爆発による煙で辺りの視界は悪くなり、状況がしばらくの間把握出来なかったようだった。</p>



<p>その時の状態を当人に尋ねようにも、ラトレイアはダオスの膝の上に座し、彼に優しく髪を梳かれ身を任せている。</p>



<p>思惟も幼くなっているので当時の情況も覚えていないであろう。</p>



<p>「…改良型…ですか…」<br>試作品とはいえルーンボトルで状態異常を引き起こした己の主を盗み見、どうしたものかとヴァルローダはガックリと肩を落とした。</p>



<p>だが、そこでふと、彼は思い出した。<br>「…そうだ、あの呪文ならもしや…」<br>まだ、あの術のメモを保管してあったはず…</p>



<p>そうポツリと呟いた。</p>



<p>「どうしてこうも騒ぎを引き起こすんですか貴女は」<br>「そんな事言われましても」<br>トラブルメーカーな部下とその上司よろしくな２人の会話をよそにヴァルローダは、以前とある町でもらったメモ紙を探して、普段から情報収集時に使用している手帳をぱらぱらと捲っていた。</p>



<p>だが…今回は以前とは状況が違いラトレイアがあの術を使えるかどうかは不透明である。</p>



<p>かといって、己は魔術の類は一切使えない。<br>メモを見つけ出しても行使出来る者がいるかどうか…。<br>ヴァルローダはページを捲りつつ深く溜め息をついた。</p>



<p>ダオスは彼が何を探しているのかを察し、ラトレイアを優しく抱きかかえたままヴァルローダのそばへと歩を進める。</p>



<p>ラトレイアはというと、ダオスに髪を梳ずられ安心しきったかのようにその小さくなった体を彼に預け、ヴァルローダの手帳を捲る指の動きを興味深げに眺めていた。</p>



<p>「いつぞやの術か…？」<br>「はい、メモは保管してあるのでマスターが術を使える状態でなくても、どなたか治癒術を使える方がいらっしゃれば、もしやと思いまして…」</p>



<p>ダオスの問い掛けに答えながらヴァルローダは目的のページを探し続ける。<br>そうこうしている間に眠くなってきたのであろう、ラトレイアは瞼を下げウトウトし始め、ついには船を漕ぎだしていた。</p>



<p>「…マスター…だいぶお疲れのようですね…」<br>状態異常を引き起こして体力を消耗したのか、マナが極端に消費されたのか、あるいはどちらともか。</p>



<p>そう呟きヴァルローダはメモを弄るのを止め、己が主の顔を覗き込む。<br>「…致し方あるまい」<br>ダオスはラトレイアを気遣い優しく抱きかかえ直せば、彼女はその面をコテンと彼の胸元に凭れかけた。<br>彼の心音に心地よさを感じたのか、ラトレイアはすうすうと寝息を立て始める。</p>



<p>あどけない仕草を見せるラトレイアに初めは戸惑ったダオスだったが、そんな彼女も微笑ましく思え。<br>目を伏せ、ふわりと穏やかな笑みを浮かべた。</p>



<p>「デミテル」<br>「…何でございましょう」<br>従者に語り掛ける口調は普段のままに、だがその言の葉に込めたる意思は務めて厳しくダオスが口を開けば、デミテルはソーサリスを諫めるのを止めた。</p>



<p>「私はこれからラトレイアを寝かしつける。<br>お前達は各自ヴァルローダと共に、状態異常を戻す策を探せ」<br>「仰せのままに」<br>主君の命に従い、仰々しくもデミテルは頭を垂れる。</p>



<p>「何人たりとも、ラトレイアの眠りを妨げる事は許さぬ」<br>その声音はとても静かに、ダオスは抑揚なく言葉を紡ぐと退室を促した。</p>



<p>「御意」<br>ジャミルはソーサリスを引き連れ主に一礼すると、ヴァルローダとデミテルと共に部屋を後にした。</p>



<p>ゆらゆらと体が動く気配がする。<br>揺りかごが揺れるような、そんな感覚。</p>



<p>「…う？」<br>ラトレイアは寝ぼけまなこを擦りつつ辺りを見回す。<br>そこには、小さくなった彼女には不釣り合いな大きいベッドがあった。</p>



<p>「…起こしてしまったか…？」<br>寝室まで抱きかかえていたダオスは、ラトレイアが身じろいだのに気付き顔を覗き込む。</p>



<p>「…だおすしゃま？」<br>まだ眠いのだろう。目はトロンとし、時々船を漕いでいる。<br>「…疲れていてまだ眠いのだろう？」<br>「うー──…」<br>彼に優しく尋ねられ、ラトレイアは目をしぱしぱと瞬かせる。</p>



<p>その反応にダオスは彼女を寝台にゆっくりと下ろし、布団を被せてやるとベッドのそばに椅子を寄せ己はそこに腰掛けた。</p>



<p>「うー──…」<br>ダオスの動作を眺めながらラトレイアはまばたきを繰り返す。<br>それはまるで寝るのを我慢しているかのようだった。</p>



<p>「…どうした？」<br>今にも泣き出しそうな瞳をしたラトレイアに気付くとダオスは席を立ち、彼女の手を取る。</p>



<p>すると、その手をぎゅっ…と、ラトレイアは握り返した。</p>



<p>「…ひとりはやーなの」<br>眠ってしまったら、一人ぼっちになってしまうのではないか？<br>そう考えたらしい。寂しそうな眼差しでダオスを見つめた。<br>「…」<br>その言葉にダオスはしばし呆気にとられたが、柔和な笑みを浮かべるとラトレイアの頭を撫でた。</p>



<p>「…案ずるな。そばにいる」<br>「…ほんとに？」<br>ダオスの一言に反応しもぞもぞと布団から這い出し、ラトレイアはダオスのそばに寄りかかる。</p>



<p>「ああ。だから、お眠り…」<br>そう言うとダオスはラトレイアを布団に寝かし直した。</p>



<p>すると、たちまちのうちに彼女は健やかな寝息を立て始めた。</p>



<p>スヤスヤと眠るラトレイアを見守り、ベッドの縁から椅子に戻ろうと立ち上がったダオスだったが、何故だか体を思うように動かせない。<br>不思議に思い目線を隈無く散らせば。</p>



<p>ラトレイアの手にはダオスのマントがしっかりと握られていた。</p>



<p>──…珍しい事が起こるものだ…</p>



<p>ダオスはふと笑みをもらすとラトレイアと同じように寝台に横になり、幼子をもつ親のように髪を梳き、その頬に軽く口付けを落とす。</p>



<p>「…おやすみ」<br>そう呟いてはラトレイアの背に手をまわし、ポンポンと撫でた。<br>それはまるで子守歌のようであった。</p>



<p>心音と温かい手と心地良いリズム。<br>すこやかな寝息。安心しきった幼いラトレイア。</p>



<p>穏やかに、そして緩やかに流れゆく時間。</p>



<p>いつしかダオスも微睡みの淵へと誘われていた。</p>



<p>ラトレイアが元の姿に戻れたのはそれから数日後、法術の心得があったソーサリスが数日がかりで体得したディスペルを使用した時であった。</p>



<p class="has-text-align-right">携帯サイト初出日：2009年11月21日　了</p>
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		<title>──残桜の園──</title>
		<link>https://www.shinen2014.website/wp/2023/11/12/zanounosono/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[二階堂悠理]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 12 Nov 2023 14:57:40 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[常しえの思い]]></category>
		<category><![CDATA[短編]]></category>
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					<description><![CDATA[ユミルで見かけた可憐な花を身にまとった古木。 その古木の名をソーサリスに聞いたところ、あの花は『桜』というらしい。なんでも春の時期にしか咲かない花らしく、そろそろ花の見頃も終わってしまうのだとか。 「…もう一度、見に行き [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>ユミルで見かけた可憐な花を身にまとった古木。</p>



<p>その古木の名をソーサリスに聞いたところ、あの花は『桜』というらしい。<br>なんでも春の時期にしか咲かない花らしく、そろそろ花の見頃も終わってしまうのだとか。</p>



<p>「…もう一度、見に行きたいなあ…」</p>



<p class="has-text-align-center">──残桜の園──</p>



<p>「…まだ咲いているかしら…」<br>ふと、物思いにふけりながらラトレイアは呟いた。</p>



<p>「…何ですか？」<br>ヴァルローダはラトレイアの呟きを耳にして彼女に問いかける。<br>「ん？この前ね、綺麗な花園を見付けたの。<br>ソーサリスにその場所のことを聞いたら、『桜』って言う綺麗な花が咲く場所って教えてもらってね。なんでも、春の時期にしか咲かないらしくて…まだ咲いているかしらと思って」<br>窓の外を眺めながらラトレイアは言葉を続けた。<br>その様子を見ながらヴァルローダは、主を探して出かけた時にユミルの森最奥で見た桜を思い出す。</p>



<p>―…確か、あの時マスターはあの方に口付けされていましたね…。城に戻ってきた時もどことなく照れてらっしゃったし…。</p>



<p>自分達は彼等が動き出した直後に慌てて先に城へ戻った後、城主と一緒に帰還した時のラトレイアの様子をこっそりと伺っていたのだが…。<br>窓の外を眺めるラトレイアの表情をヴァルローダからはうかがい知ることは出来ない。が、耳元を見やるとどことなく赤い。<br>おそらく、花園での出来事を思い出してしまい恥ずかしくなって顔を見られたくないのだろう。</p>



<p>――その場面を偶然目撃してましたとも言えないからなあ…。</p>



<p>ヴァルローダは心の中で苦笑した。</p>



<p>たぶん、あの場に自分が居たことに気付いていないのは彼女だけだろう。</p>



<p>ソーサリス曰く、あの方は我々の気配に気付いていたらしいとの事だった。お咎めは無かったらしいが…。</p>



<p>「では、誰かを誘ってお花見に出かけましょうか？」<br>ヴァルローダはラトレイアに問いかけた。<br>「まだその花園に咲いているかもしれませんし。私も見てみとうございます」<br>その言葉にラトレイアは、ヴァルローダは見たことが無いのを思い出した。<br>「そうね！見に行きましょうか」<br>彼の提案を受け入れ、ラトレイアは出かける準備を始めた。</p>



<p>　ユミルの森、最奥部。<br>ラトレイア達は桜のある区域にいた。</p>



<p>「まだ咲いているといいねえ…！」<br>ソーサリスは朗らかな笑顔でラトレイアに笑いかける。<br>「そうですね！」<br>彼女もそれにつられて笑顔で答えた。<br>「もう見頃の時期は過ぎている気もしますが…」<br>デミテルは、『何故私までマナが満ちている森の側まで行かなくてはならないのだ』と内心悲しくなった。</p>



<p>魔族にとって、マナは厄介な物に他ならない。<br>――幸い、ヘイムダールには入らないみたいですからまだ良いですが…。良くまあソーサリスはこの場所を知っていたものですね。</p>



<p>デミテルはちらりとソーサリスを眺め見る。<br>その様子を、後方でダオスは眺めていた。</p>



<p>「…わあ…！」<br>最奥にある開けた場所、見事な古木のある場所へと辿り着いたラトレイアは感嘆の声を漏らす。</p>



<p>ふと、ダオスは目線を彼女に向けた。</p>



<p>「うそ…凄い、まだ咲き残ってた…」<br>ソーサリスは目の前の光景に目を疑った。<br>周辺の桜はみな散っていたのだが、それに反比例するかのような零れ桜。それは見事な古木。<br>まるでラトレイアを待っていたかのようなその木は、風に揺れるたびに花びらを音も無く空に舞わせている。</p>



<p>ひらひら、ゆらゆら。風になびく花弁。その様子は煽ち風によってくるくると変わってゆく。</p>



<p>――はやく、こちらまでおいで…</p>



<p>そう言わんばかりの光景。<br>誘われるがままにラトレイアは桜の根元まで歩を進める。<br>彼女のあとに続くかのように、ダオスも歩を進めた。</p>



<p>――花霞が濃くなった…？<br>ヴァルローダは、己の主と彼の人を見失いかけるほどの花吹雪に目を疑った。<br>「なんだか、桜吹雪で前がよく見えないや…」<br>ソーサリスは思わず目を瞑る。それと同時にデミテルは古木にある種の魔の気配を感じた。</p>



<p>「…あながち、桜には魔が棲むというのも嘘ではなさそうですね」<br>ポツリと呟いた。</p>



<p>　桜の根元に辿り着いたラトレイアとダオスは、先程までの花吹雪が収まっていることに気が付きあたりを見回した。</p>



<p>周囲に従者の姿はない。<br>「……？」<br>皆、どこへ行ってしまったのだろうか？<br>ラトレイアは小首を傾げた。<br>「……花霞ではぐれてしまったようだな」<br>ダオスは冷静に状況を分析し、彼女の側に歩み寄る。<br>「そうですね…先程の桜吹雪は凄かったですからね…」<br>まだ夢見心地のような表情で、木の根元に腰掛け木肌を撫でると桜を見上げ目を瞑る。<br>花びらが落ちていく音に耳を澄ます。さらさらと静かに舞う桜の花弁の織り成す静けさがとても心地よい。<br>いつしかラトレイアはまどろみの淵へと落ちていた。</p>



<p>──どうもおかしい…。<br>桜に凭れ掛かりまどろむラトレイアを守るかのようにダオスは寄り添うと、頭上からかすかに気配を感じた。</p>



<p>魔族とも魔物とも違う、何か。<br>気を緩めることなくダオスは己のマントにラトレイアを包み込むと、優しく抱き寄せた。</p>



<p>「……あな口惜しや…あと少しでその者を我が物に出来たものを…」<br>頭上から僅かに忍び声が漏れた。<br>「まあ良いわ…こうも守りが強い者を無理やり連れ去る程無粋ではないのでの…」<br>くすくす笑いながら、その気配の主は姿を消した。</p>



<p>「……」<br>気配が去ったことを確認してからダオスは警戒を緩める。<br>すると、一陣の風が吹いたかと思うと、二人を探していたのだろうかデミテルたちが駆け寄ってきていた。</p>



<p>「一体なんだったのでしょう。先程まで全く視界が効かなかったのですが…」<br>「見つかって良かったああ！…一時はどうなることかと思いました」<br>ヴァルローダとソーサリスは口々にダオスに語りかける。<br>「…ふあ……」<br>まどろみの淵から戻ってきたのか、ラトレイアは目を瞬かせ背伸びをする。<br>その様子を見てデミテルはダオスの傍らに歩を進めた。<br>「どうやら、魔に魅入られかけていたようですね」<br>彼女の様子と、主の行動から判断して呟いた。<br>「…気付いていたか」<br>「いえ、ここに来るまでは全く」<br>ダオスの問い掛けに正直にデミテルは答える。<br>「ただ」<br>「ただ？」<br>デミテルの呟きとも取れない籠もり声にダオスは続きを促す。<br>「…桜には魔が棲みやすいと、聞いたことがあります。<br>このくらいの古木なら、いても不思議は無いでしょうね」<br>──彼女は、魔に属する者に対しても全く変わらぬ対応をしますからね。普通なら忌み嫌う魔にも同等に語りかける。</p>



<p>「何故そのように振舞えるのか、一度聞いてみたいものですよ」<br>デミテルは『理解できない』とでも言うかのように言葉尻を終えた。</p>



<p>渦中の人は、ソーサリスと「綺麗な風景ね」などと他愛も無い話に花を咲かせている。<br>「ダオス様、どうかなされましたか？」<br>視線を感じたラトレイアは小首をかしげて視線の主を見やった。<br>「いや…」<br>それに答えるかのようにダオスは優しく微笑んだ。</p>



<p>「そろそろ戻るとしよう。我が城へ…」<br>ダオスはそう言うとゆっくりと立ち上がりラトレイアに手を差し伸べる。<br>「はい」<br>ラトレイアはその手を取り立ち上がるとにこやかに笑みを浮かべた。</p>



<p>花園から遠ざかって行く彼女らを見送るかのように、また一陣の風が吹く。</p>



<p>──さようなら…</p>



<p>花びらは別れを惜しむかのようにいつまでも棚引いていた。</p>



<p>携帯サイト初出：2009年5月12日　了。</p>
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		<title>──不変の時・久遠の記憶──</title>
		<link>https://www.shinen2014.website/wp/2023/11/12/huhennotoki/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[二階堂悠理]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 12 Nov 2023 14:55:22 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[常しえの思い]]></category>
		<category><![CDATA[短編]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://www.shinen2014.website/wp/?p=707</guid>

					<description><![CDATA[眠れぬ夜。それはいつから始まったのか…… ──不変の時・久遠の記憶── 　悪夢。それは遠い過日の記憶、その断片が見せる幻。 忘れたくても忘れられない…いや、忘れてはならない記憶。されど、その内容は過酷なもの。 「…う…ん [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>眠れぬ夜。それはいつから始まったのか……</p>



<p class="has-text-align-center">──不変の時・久遠の記憶──</p>



<p>　悪夢。それは遠い過日の記憶、その断片が見せる幻。</p>



<p>忘れたくても忘れられない…いや、忘れてはならない記憶。<br>されど、その内容は過酷なもの。</p>



<p>「…う…ん……」<br>寂莫たる暁方。床に就きまどろんでいたラトレイアは苦悶の表情を浮かべる。</p>



<p>──苦しい…苦しい…忘れたい…でも忘れられない…―</p>



<p>夢の中でラトレイアは、ただひたすらに過去の記憶…<br>故郷の世界が滅び行く様を見ている事しかできなかった。</p>



<p>──世界は『滅び』を選んだ…。その望みを叶えるため、彼女は世界を再生させることは無かった…。<br>私は…荒廃していく世界に存在するモノの命を刈り取って…──</p>



<p>そのときの光景をただひたすら繰り返す。<br>「！」<br>ラトレイアは思わず寝床から跳ね起きた。</p>



<p>「…はあ……」<br>息は荒く、表情は青ざめている。</p>



<p>　毎晩のように同じ悪夢が続き、ラトレイアは溜息をこぼした。</p>



<p>「ここしばらくは見ることもなかったのに…」<br>以前も連日のように悪夢に苛まれていたが、ダオスに打ち明けた以降、悪夢を見る回数は不思議なことに減っていたのだが…。</p>



<p>「…はあ…」<br>窓をふと眺めると、東の空が白み始めていた。<br>「今日も…あまり寝られなかった…」<br>ベッドから降りて服を着替え、ラトレイアは気分を変えるため会議室へと向かった。</p>



<p>　会議室のあるフロアを目指し、長い廊下を歩いていると、どこかに外出していたのであろうか、ジャミルとデミテルに出会った。<br>「おや、珍しい。<br>　今日は1人ですか」<br>いつも傍らに控えている侍従がいないことに僅かに目を見張ったデミテルは、つい言葉を漏らす。</p>



<p>「あ…おはよう。2人とも」<br>質問に答えることなく、虚ろな眼差しでラトレイアは口上を述べる。<br>顔色もどことなく青白い。</p>



<p>「…何かあったの…？」<br>ジャミルも、普段と違う様子のラトレイアに驚き彼女の肩に手を添える。</p>



<p>「──…ん。ちょっと…寝不足で…」<br>会議室に向かう道中、力なくラトレイアは答えた。<br>その足取りは重い。</p>



<p>会議室に辿り着くなり、ラトレイアは椅子に腰掛けるとテーブルに突っ伏してしまった。<br>「ちょっ、本当に大丈夫？」<br>さすがに心配になったジャミルは彼女の額に手を当て、熱を測り『熱は無いみたいね』と呟く。<br>「何か悩みでもあるんですか？」<br>彼女の状態を見てデミテルは『悩みがあるなら聞きますが？』と問いかける。</p>



<p>「……」<br>「ちょっとデミテル。具合悪い時に無理に話させなくても」<br>デミテルの問いかけに答える様子も無いラトレイアを見てジャミルは、彼に向かって語気鋭く言い放つ。<br>それに対してデミテルは『おやおや…随分と珍しいこともあるものだ』と、珍しく己に向かって語勢を荒げるジャミルの詰問をかわした。</p>



<p>「…眠れなくて…」<br>「…はい？」<br>唐突に話し出したラトレイアの言葉にデミテルは首をかしげる。</p>



<p>この人は何を言ったのか。『眠れない』と？<br>デミテルとジャミルは顔を見合わせる。</p>



<p>「ここ連日のように、夢見がすこぶる悪くて…」<br>顔を伏せたまま、ラトレイアは訥訥と語りだした。<br>「悪夢…ねえ…」<br>ラトレイアの語る内容を聞きジャミルはどうしたものかとため息を漏らす。<br>「ちなみに、どのくらいの期間夢見が悪いんですか?」<br>デミテルはラトレイアに問いかける。<br>「……覚えてない……けど、だいぶ前から…」<br>寝不足で回らない思考を廻らせ、いつごろから夢見が悪いのか思い出そうとするも、毎晩のことのため記憶も曖昧になっていたラトレイアは正直に答えた。</p>



<p>「そんなに酷いの…？じゃあさ、良い考えが浮かんだんだけど」<br>何かを思いついたらしい、ジャミルはラトレイアの顔を覗き込むように彼女の肩に腕を回し、己の顔を近づける。<br>その様子にデミテルは僅かに眉をひそめ、ジャミルが何を言い出すのかと次の言葉を待つ。<br>「夢魔と契約を交わさない？」<br>「…契約…なんの？」<br>ジャミルの問い掛けにぼんやりとした眼差しでラトレイアは彼女の顔を眺める。<br>「そう、悪夢喰らいの夢魔を紹介してあげるよ。<br>そいつに悪夢を食べてもらえば？少しは眠れるようになるんじゃない？」<br>「ああ…ナイトメアあたりなら、悪夢を食べてくれるかもしれないですね」<br>ジャミルの提案に、デミテルも頷く。<br>「ただ、魔界から呼び寄せなくてはなりませんが…」<br>「あ…そうか。でも、今回くらい呼び寄せても大丈夫じゃない？どうせ…」<br>──いずれ、神界に挑む戦にナイトメアも参戦させるのだから──<br>彼らはヒソヒソと密談を交わす。その様子にラトレイアが気付くことはなかった。</p>



<p>「…うーん…たぶん、ナイトメアでも喰らい尽くせないと思うけど…」<br>ラトレイアが見るのは膨大な過去の記憶。夢の欠片。<br>下手をすれば、夢魔のほうが倒れてしまうかもしれない。<br>「それでも、少しは今の状態が和らぐかもよ？」<br>ジャミルはなおも食い下がる。</p>



<p>──さて…どうしたものか…。<br>何か策があるわけでも無い。２人の策略なども微塵も感じないところをみると、珍しく本気で心配していてくれているのだろう。<br>「…そうですね。では、お願いしてもいいかしら？」<br>ラトレイアは悩んだ末…彼らの提案を好意と受け取り、悪夢のみを食らうという、一風変わった契約を交わすことを承諾した。</p>



<p>　ナイトメアと契約を交わしたその夜から数日後。<br>少しずつではあるが効果はあるらしく。</p>



<p>ラトレイアは久しぶりに眠れている気がしていた。<br>だが、その一方では夢魔に異変が起こり始めていた。</p>



<p>ある銀鉤の晩。<br>ラトレイアの様子を伺いにジャミルとデミテルは彼女の寝室を訪れていた。<br>彼女が眠りについてしばらくののち。<br>悪夢が始まったのかラトレイアの顔に苦悶の表情が浮かびだす。</p>



<p>凶夢に呼応するかのようにナイトメアが現れ、彼女との契約を元に己の糧とするため問題の夢を食らう。</p>



<p>その刹那。<br>「デミテル…そこで何をしている」<br>彼等２人の主、ダオスが、覚えの無い魔物の気配を感じ取ったのかラトレイアの寝室へと訊ねてきていた。</p>



<p>ラトレイアは起きる様子は無い。<br>ダオスは音を立てることなく、己の従者のもとへと歩を進める。<br>「これはこれは…ダオス様」<br>恭しく頭を垂れるデミテルを見据えるとダオスは眉を顰め、『質問に答えよ』といわんばかりに彼等の顔を睥睨する。</p>



<p>「ラトレイアが悪夢を見続けて寝不足だと悩んでいたので、魔界から夢魔を呼び寄せたのですよ」<br>「悪夢喰らいの夢魔ですし、問題の夢以外は食さないという契約ですので、ご心配には及びません」<br>デミテルとジャミルは、主に順を追って説明をする。</p>



<p>「…悪夢？」<br>彼女に害をなすわけではないということが分かり、ダオスは警戒を緩めた。<br>以前、故郷の悪夢をよく見るとラトレイアは話していた。<br>再びその夢を結ぶようになったというのだろうか…。<br>確かに、ここ数日の彼女はどことなく顔色が悪かった。</p>



<p>その時である。<br>「ぐっ……！」<br>かすかにうめき声を上げたかと思えば、ナイトメアはその場に崩れ落ちた。<br>息も絶え絶えにうずくまる。<br>「どうした？」<br>デミテルは急な出来事に瞠目し、己が呼び寄せた魔物に問いかける。<br>「…申し訳ありま…せん…デミテル様…わ…たくし…では…<br>この方の…悪夢は…きょ…よう…量…超えて……ます</p>



<p>永久に…続くかの…ような…や…み…が」<br>そう言いナイトメアは気を失ってしまった。<br>「……」<br>その様子にデミテルとジャミルは言葉を失った。<br>魔に属する者にとっては、負の感情は己の活力にもなる。それゆえ、悪夢などは夢魔にとっては最高のご馳走。ましてや、ラトレイアの様子から察するにナイトメアにとっては極上の悪夢だろうに。</p>



<p>「一体どんな夢だというのか…」<br>永久に続くかのような闇とは一体何なのだ？<br>デミテルは、予想外の事態に背筋が寒くなっていくのを感じた。</p>



<p>「…ふう…む…ん？」<br>自分の寝床の周りに気配を感じ、ラトレイアはふと目を覚ます。<br>眠たげな表情であたりを見渡せば、そこにはデミテルとジャミル。そして…<br>「…ダオスさま…？」<br>なぜここに彼がいるのだろう？これは夢だろうか？<br>夢と現の狭間にいるように、感覚がはっきりとしない。</p>



<p>状況が分からず、ぽかんとした顔のままラトレイアはダオスを見詰めた。</p>



<p>その様子を見て、ダオスはデミテルとジャミルに対し退室を促す。<br>彼等は主君の意思に沿うべく、気絶したままの夢魔を連れてラトレイアの部屋を後にした。</p>



<p>　ラトレイアはうつろな眼差しで、退室していくデミテルたちを見ておぼろげにではあるが、やはりナイトメアでも己の悪夢は許容量を越えていたのだろうと理解した。</p>



<p>「ここ数日、様子がおかしいとは思っていたが…」<br>おもむろに、ダオスは寝台に座るかのような姿勢のままで見詰めてくるラトレイアに穏やかに囁きかける。<br>「…あまり無理をしてくれるな…」<br>そう言うと、自身のマントにラトレイアを包み込み、優しく慰めるかのように抱きしめた。<br>「私に頼っても良いのだ。…彼等魔族に頼らずとも良い」<br>その声は、どこか切なげであった。</p>



<p>──そうか、これは夢なのだ。甘い夢を私は見ているのね…<br>そうでなければ、このような刻限に、部屋にダオス様が訪れるわけもない。<br>そう思ったラトレイアはダオスの首元に顔を埋める。</p>



<p>「…申し訳ありません……」<br>「良い。これからは、眠れぬ時は私の元へ来るといい」<br>「……は…い…」<br>ダオスのぬくもりが心地よく、恍然とした様子でラトレイアは彼の申し出を受け入れた。</p>



<p>「さあ、もう横になるといい…」<br>ダオスはラトレイアの背に手を添えゆっくりと彼女を寝台に横たえる。<br>「はい…」<br>ラトレイアは促されるまま横になると、徐々に瞼を閉じていく。</p>



<p>隣にある温もり、そして、心地よい心音。<br>髪を梳く手の動き。被された夜具の温かさ。</p>



<p>ラトレイアはいつしか凶夢ではない夢境へと誘われていった。<br>「……」<br>その表情はとても穏やかで。<br>「…おやすみ…」<br>──抱きしめて安らぎを与えられるのであれば、悪夢に苛まれることが無くなるのならば…</p>



<p>そう思いながらダオスは彼女を掻き抱くその腕に優しく力を籠め、そして額に口付けを落とすと目を閉じた。</p>



<p>携帯サイト初出：2009年5月9日　　了。</p>
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		<title>── 桜花の園 ──</title>
		<link>https://www.shinen2014.website/wp/2023/11/12/oukanosono/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[二階堂悠理]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 12 Nov 2023 14:52:13 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[常しえの思い]]></category>
		<category><![CDATA[短編]]></category>
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					<description><![CDATA[「…雨…か…」朝起きれば、耳にしたのは天から流れ落ちる滴の音。は、大地に降り注ぐ心地よい雨音に目が覚めた。 カーテンを開け、外を眺める。そこから見えるのは雨に煙るヴァルハラ平原。 「この前見かけたあの花、まだ咲き誇ってい [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>「…雨…か…」<br>朝起きれば、耳にしたのは天から流れ落ちる滴の音。<br>ラトレイアは、大地に降り注ぐ心地よい雨音に目が覚めた。</p>



<p>カーテンを開け、外を眺める。そこから見えるのは雨に煙る<br>ヴァルハラ平原。</p>



<p>「この前見かけたあの花、まだ咲き誇っているかしら…」</p>



<p>何日か前に何気なく、1人で空中散歩を行ったときに見つけた古木。</p>



<p>その見事な枝ぶりを持つ樹木は、可愛らしい蕾みをたくさん枝に携えていた。</p>



<p>中には、ほんのりと薄紅色に染まった愛らしい花弁を咲かせているものもあり、<br>三分咲きといったところか。</p>



<p>周囲には、色は違えども同じ蕾みを携えた樹木が生い茂っていた。</p>



<p>「雨が止んだら、見に行ってみようかしら…」</p>



<p class="has-text-align-center">─── 桜花の園 ───</p>



<p>　午刻を過ぎた頃。<br>朝から降り続いていた雨も止み、雲の隙間から日の光が差し込んでいる。<br>昼食を終えたあと、ラトレイアは軽装備を身に纏い、花を愛でるため自室を後にした。</p>



<p>　以前その花を見かけた場所を目指し、空を当てもなく渡る。<br>「どの辺りだったかしら…？」<br>──確か、アルヴァニスタに程近い…ユミル大陸地方だったかしら？<br>アルヴァニスタ付近の上空に差し掛かるとラトレイアは進路を定め、ユミル地方を目指す。<br>程なくしてユミル大陸上空にたどり着く。すると、水鏡ユミルの森の方角、その中でも再奥にある一区画付近が白雲の園のように仄見えた。<br>「何かしら？」<br>ラトレイアはその場所を頼りに空を行く。<br>降り立てば、そこは可憐な花を纏った目的の古木。</p>



<p>「…凄い…綺麗…」<br>古木の周辺の樹木もすでに満開といった風情が漂っている。<br>白雲のように見えたのは、見事なまでに咲き誇った可憐な花達であった。<br>魅入られたかのようにラトレイアは風景をしばし眺めていると、一陣の風がびゅうと吹く。<br>花びらが煽ち風にたなびく様はとても幻想的で、我を忘れてその光景に魅入っていた。</p>



<p>　どのくらいの時間、そうしていたのであろうか。<br>「…見事な風景だな」<br>「…！」</p>



<p>突然の気配に驚き、ラトレイアは後ろを振り返る。<br>「ダオス様！」<br>いつの間にこの場所を訪れていたのだろうか。<br>午餐のあと、視察のため大樹の元へ出かけたダオスが背後にたたずんでいた。<br>「このような場所に、花園があるとはな…」<br>ダオスは、見事な光景に目を細める。<br>「はい…」<br>ラトレイアも、ダオスと同じように景色を眺める。</p>



<p>　ふと、日の光に反射し、花弁がほのかに茜色に染まっていく。<br>空を見やれば、太陽が地平線を目指して傾いていた。</p>



<p>朱色を濃くした入り日影にまるで呼応したかのような風景。</p>



<p>言葉を失うほど幻想的な景勝。<br>斜陽から察するに、日の入りが近いのだろう。</p>



<p>「逢魔が時…だからでしょうか。なんだか物悲しく感じます」<br>ラトレイアは、刻一刻と沈みゆく太陽に染まっていく大地、<br>そして、その光を受けて表情を変えていく名も分からぬ花が織り成す神秘的な状景に<br>嘆声をもらした。</p>



<p>甘美な夢を見ているかのように目を閉じたラトレイアに<br>ダオスは言葉を忘れて見蕩れた。</p>



<p>ひゅう…と、弱い風が吹いた。<br>ダオスは春風に髪をなびかせるがまま、また花に目を向ける。</p>



<p>ラトレイアは、金の髪が夕日に染まり黄金色に<br>輝いて見えるダオスを見て、息をのんだ。</p>



<p>──なんだろう…この感情。<br>ドキドキしてしまう…。</p>



<p>ラトレイアは彼から目を離すことが出来なかった。</p>



<p>「…日暮れだな」<br>ダオスがおもむろに話しかける。<br>「はい…。<br>ところで、ダオス様」<br>「…なんだ？」<br>「いつ頃こちらにいらしたのですか？」</p>



<p>　景色に気を取られていたが、ふと疑問に思ったラトレイアは彼に訊ねた。</p>



<p>「…大樹の視察後に来た」<br>──城へ戻ろうと空に舞えば、ユミルの森の奥へ降りていく君を見た。</p>



<p>何かあったのかと思い、私もこうして訪れたのだ。</p>



<p>彼はそう言った。</p>



<p>「…そうだったのですか…」<br>──…と、いうことは…？</p>



<p>自分が花を愛で始めた頃から近くにいらした…？</p>



<p>　それに気が付いたラトレイアは恥ずかしそうに俯いた。<br>すっかり気を緩めていたので、何か気恥ずかしい。<br>「お声をかけてくださいましても宜しかったですのに…」<br>「声をかけるのもはばかられてな」<br>そう言うとダオスはラトレイアの手を取り、自身へと引き寄せる。<br>「君に見惚れていたのだ…」<br>──花霞に攫われるのではないかと思うほどに…<br>ラトレイアを抱きしめ、耳元で囁いた。</p>



<p>「え…？」<br>意外な言葉に耳を疑ったラトレイアは思わず顔を上げる。<br>すぐ側には彼の顔。</p>



<p>「…ダオス様…？」<br>──どうかいたしましたか？<br>と言葉を続けようとしたが、それは遮られた。</p>



<p>彼の唇によって。</p>



<p>それは、愛おしむかのような優しい口付けだった。</p>



<p>　しばらくして、ダオスは口付けから開放すると<br>「城へ戻ろう…」<br>突然の出来事に固まってしまったラトレイアの腰に手を添え、<br>ひざ裏をすくいあげ抱きかかえると、花吹雪き舞う花園を後にした。</p>



<p>携帯サイト初出：2009年4月21日　了．</p>
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		<title>「Trick or Treat?」</title>
		<link>https://www.shinen2014.website/wp/2023/11/12/trick-or-treat/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[二階堂悠理]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 12 Nov 2023 14:49:44 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[常しえの思い]]></category>
		<category><![CDATA[短編]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://www.shinen2014.website/wp/?p=703</guid>

					<description><![CDATA[それは、この一言で始まった。 「Trick or Treat?」 　10月31日。 この日は万聖節の前夜という事で、アセリア各地でハロウィンを祝う準備が執り行われていた。 「ハロウィン…ですか？」ひょんな事からアルヴァニ [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>それは、この一言で始まった。</p>



<p class="has-text-align-center">「Trick or Treat?」</p>



<p>　10月31日。</p>



<p>この日は万聖節の前夜という事で、アセリア各地でハロウィンを祝う準備が執り行われていた。</p>



<p>「ハロウィン…ですか？」<br>ひょんな事からアルヴァニスタまで一緒にクレス一行と旅をする事になったラトレイア達は、この世界にもハロウィンがあることを知った。<br>ここベネツィアでも例外ではなく、街はハロウィンに備えて家の玄関口に魔除けの焚き火をランタンで焚いていたり、子供達が仮装の準備をしている。<br>「そう！ハロウィン！<br>今日は船が出られないっていうし、あたしたちもその間ハロウィンを祝おうよ！」<br>アーチェはにこやかに、みんなに提案した。<br>「…まあ、船が出られないのだから仕方ないですよね」<br>クレスはそう言うと、クラースの方を見た。<br>「…そうだな。だが、あまり羽目を外すなよ？明後日は船に乗るのだから」<br>「やったー！そうこなくっちゃ！<br>じゃ、ミントも準備しよっ！ほらほらほら！」<br>クラースの許可が出た途端、アーチェはミントを引き連れて街中へと出掛けて行った。<br>「…素早いですね」<br>ラトレイアは、アーチェの行動力に呆気にとられていた。<br>「すまないな、ハロウィンに付き合わせてしまって」<br>クラースはラトレイアに詫びた。<br>「え？」<br>「お前さんも、急ぎの旅だろうに」<br>「いえ、船が万聖節で出航出来ないのですから仕方ないですよ」<br>気になさらないで下さい、とラトレイアはにこやかに微笑む。<br>「でも、ハロウィンで船が出せないのは予想していませんでしたね」<br>ヴァルローダはしみじみとした面もちで船着き場から船を見上げた。<br>「仕方ないさ。収穫祭だからな。我々もすっかり忘れていたよ」<br>そう言いクラースはきびすを返し、船着き場を離れ宿へ戻ろうと歩き出した。<br>クレスとヴァルローダも船着き場を離れようときびすを返し歩き出す。<br>「ハロウィン…か」<br>──確かハロウィンは街に精霊や魔女・家族の先祖が夜、家々に訪れてくるっていうものよね…。<br>この世界では収穫祭色が強いのね。魔除けの焚き火は焚かれているみたいだけど。</p>



<p>　ラトレイアがそう物思いにふけっていると、頭上から<br>「危ない！よけて！！」<br>声が降ってきたかと思うと</p>



<p>──ドサドサドサッ！！と、船に積まれていたであろう荷袋が落ちてきた。</p>



<p>「！」<br>とっさによけたラトレイアだったが、ある荷袋から1つの瓶がこぼれ落ち、今にもラトレイアにぶつかりそうになった。</p>



<p>「あ、危ない！」<br>クレスが駆け寄ろうとしたのも束の間。</p>



<p>ラトレイアは条件反射で剣を抜き、瓶を一刀両断にしていた。</p>



<p>「あ。…つい…」<br>瓶を真っ二つにしてしまい、まずい事をしたと思ったラトレイアだったが、瓶にはぶつからなかったものの時すでに遅く、頭から瓶の中身をかぶってしまっていた。<br>「本当にすみません、お怪我はありませんか？」</p>



<p>荷崩れを起こした船の甲板員なのであろう、水夫が船から降りてきた。</p>



<p>「あ、はい、ケガは無いです」<br>ラトレイアは水夫にそう答えると<br>「それより、すみません。瓶を1本切ってしまって…。弁償させていただきますね」<br>ずぶ濡れになりながらも水夫に詫びた。<br>「いえ、こちらこそ荷崩れを起こしてすみませんでした。<br>こちらの不手際ですので瓶のお代は結構ですよ」<br>慌ただしく荷物をまとめ上げ、水夫は弁償を申し出たラトレイアに深謝を述べ、さらにお詫びとして「宿代に用立てて下さい」と代金を渡して船へと戻って行った。</p>



<p>「それにしても、よくあれだけの荷物をよけたものだな」<br>クラースはラトレイアの反射神経の鋭さに目を見張った。<br>「僕の出る幕無かったですよ…本当、ラトレイアの反射神経って凄いですね。<br>…ところで、瓶の中身は何だったんですかね？」<br>クレスは、真っ二つになった瓶を手に取った。</p>



<p>　ラベルをみると、それには『ルーンボトル』と書かれていた。<br>「ん？どうしたクレス」<br>瓶のラベルを見て動きが止まったクレスを見てクラースは手元を覗きこんだ。<br>そしてクレス同様、クラースも表情を強ばらせた。</p>



<p>──ルーンボトル<br>魔力付与の瓶。不確定アイテムの鑑定に使用したり一部のアイテムを別のアイテムに変化させる事もある。</p>



<p>備考。<br>ベネツィアでは販売していないアイテムである。<br>(西の孤島デミテルの館内にいるモンスターが時々落としていく、割と貴重なアイテムである)</p>



<p>「……」<br>「…だ、大丈夫ですよね。人が変化したりは」<br>しないですよね？とクレスが話そうとしたのを遮るように<br>「うわっ！？」<br>ヴァルローダが驚きの声をあげた。</p>



<p>「どうした？」<br>クラースは慌てて後方を振り返ると、『ポンッ』と、アイテムを鑑定した時のような煙が上がっていた。</p>



<p>煙がおさまるとそこに現れたのは…</p>



<p>「…？な、こりぇは？」<br>驚きで目を白黒させながらもラトレイアは何が起こったのか状況を把握しようとあたりを見回した。</p>



<p>周りがやけに大きくなったように見える。<br>「…？」<br>見れば、ヴァルローダは顔面蒼白でうろたえている。<br>何が起こったのかと思い、海の水面を見ると…</p>



<p>「…えー！？」<br>そう、そこには子供ぐらいの大きさになっていたラトレイアが映っていたのである。</p>



<p>「なっ、なじぇこんな」<br>いきなりの出来事にラトレイアは水面に映る自分を確かめるかのように身振り手振りを繰り返した。</p>



<p>「と、とにかく人目をひくと厄介ですから宿へ向かいましょう！」<br>ヴァルローダはラトレイアを抱きかかえると慌てて宿屋へと走って行った。</p>



<p>「我々も急ごう」<br>「はい！」<br>クラースとクレスも、後を追うように宿屋へと走って行った。</p>



<p>「…つまり、ルーンボトルの中身を頭からかぶったために服ごと子供化してしまった…という事ですか？」</p>



<p>　ベネツィア唯一の宿屋の中。<br>ヴァルローダはルーンボトルの効能などをクラースから教わり、なぜラトレイアが小さくなったかを知った。</p>



<p>「ああ、考えられるのはそれしかないな」<br>クラースも、信じられないがそれしかないと説明を終えた。<br>「うう…やはり瓶を切ったのは早計でちたね」<br>とっさの出来事だったとはいえ、剣で瓶を真っ二つにして結果的にこの事態を引き起こしてしまった事にラトレイアはうなだれた。<br>「ましゃか、こんな事になりゅなんて…」<br>「…口調もすっかり舌足らずに…」<br>まさかの事態にヴァルローダは、この状況で何も出来ない自分が不甲斐なくて唇を噛み締めた。<br>「一体どうしたら元に戻れりゅんでしょうか？」<br>時間が経てば効力も消えるものなのか気になったラトレイアは解決策を見いだすために質問をした。</p>



<p>するとそこへ<br>「たっだいまー！見て見て！衣装借りちゃった！<br>…あれ、みんなどうしたの？」<br>ハロウィンの仮装用に衣装を借りたアーチェが宿に戻って来た。<br>「…あら？ラトレイアさんは…？」<br>アーチェに続くように戻って来たミントは、１人足りない事に気付き室内を見渡した。<br>その様子を見て、これは厄介な事になったなとクラースは肩をすくめ、クレスはどう説明したら良いか悩んだ。</p>



<p>「あの…わたちはここです」<br>ラトレイアはおずおずと手を上げた。</p>



<p>「…え？え？何がどーなっちゃってるのこれ？」<br>アーチェは、目の前にいるラトレイアの姿に目を白黒させた。<br>「一体何があったんですか？」<br>異常事態にミントも驚き、事情を知っているであろうクレス・クラース・ヴァルローダを見渡した。<br>「実は─…」<br>ヴァルローダは、今までのいきさつを２人にかいつまんで説明した。</p>



<p>「そんな事があったんだ…」<br>事の顛末を聞いたアーチェは、ラトレイアを膝に乗せて抱きかかえ<br>「もう日も暮れだしてきたけど…これからどうするの？」<br>どうしたらラトレイアが元に戻れるか探すため、クラースに訊ねた。</p>



<p>「どうする、と言ってもだなあ…」<br>たずねられたクラースは妙案が浮かばず悩んでいると<br>「…この瓶の効果はいちじてきなものなんでしゅか？」<br>ラトレイアは先ほどから気になっていた事を質問した。</p>



<p>「いや、一度アイテム鑑定に使ったものは、変化後もそのままの状態を保っているから…」<br>「一時的な効果ではないですよね」<br>「うん、そだね…」<br>ラトレイアの質問にバツが悪そうにクラース・クレス・アーチェは答えた。</p>



<p>「そ、そうなんでしゅか…」<br>思いのほか状況は悪いのだと知ったラトレイアはさらにうなだれた。<br>ヴァルローダはますますうろたえている。</p>



<p>「でも、アイテム変化したものにかけると元のアイテムに戻るものもありますよね」<br>クレスが思い出したように呟いた。<br>「だが、アイテムの時のようにうまくいくとも限らん」<br>「そうだよ、もし失敗したら…」<br>クラースの制止にアーチェも同意し、クレスを見た。<br>「そうだよね、ごめん…」<br>軽率な発言だったとクレスは謝った。</p>



<p>「あ、そうだ！ミントの法術は？」<br>アーチェは状態変化の治療術のある法術を思い出してミントに訊ねた。</p>



<p>「そうですね…私が今使える術で戻れると良いのですけれど…」<br>やってみる価値はありますね、とミントは意識を集中させた。<br>「アンチドート！」<br>祈りを捧げて法術を発動させミントはラトレイアに術をかけた。</p>



<p>ヴァルローダは祈るような面もちで様子を伺った。</p>



<p>だが、しばらく様子を見守ってみても特に変化は見られ無かった。</p>



<p>「…うーん、やっぱり解毒の術では解けないか…」<br>毒と呪いじゃやっぱり原理が違うからか…と、アーチェはますます悩んでしまった。</p>



<p>「すみましぇんみなさん。わたちがいたらないばかりにめいわくをかけてしまって…」<br>申し訳なさそうにラトレイアはアーチェの膝から降りると<br>「すみましぇん、ちょっと外の風にあたって頭を冷やしてきます」<br>そう言って部屋から出ようとした。<br>「え？今から？暗くなる時間だから危ないよ！」<br>アーチェは外出しようとするラトレイアを慌てて止めに入った。</p>



<p>「え？なじぇですか？」<br>キョトンとした面もちでラトレイアは振り返った。<br>「そりゃ、夕暮れ時に小さな子が１人で外にいたら危ないじゃん！今は何があるか分からないご時世だもの！」<br>「浚われたりでもしたら！」<br>口々にアーチェとクレスは止めに入った。</p>



<p>「そうでしゅか？そんな事はないと思いましゅが…」<br>「そうですよ！外出するならせめて私もご一緒させて下さい」<br>皆の言う事も一理あるとヴァルローダも止めに入った。</p>



<p>「わかった。じゃ、ヴァルも行こう！」<br>そう言うとラトレイアはヴァルローダの手をひいて外へと出掛けて行ってしまった。</p>



<p>「それで…これからどこへ行くんですか？マスター」<br>手をひかれ外に出たヴァルローダはラトレイアの意図をはかりかねて訊ねた。</p>



<p>「ん…。人目のつかない所で、元にもどりゅための実験をしようと思って。<br>まじゅは、道具屋で買い物」<br>そう言うとラトレイアは道具屋を目指して歩き出した。</p>



<p>道具屋でパナシーアボトルを数本買ったあと、ラトレイア達はベネツィアを出た。</p>



<p>「人目のつかない所…街の外ですか？」<br>ヴァルローダは疑問に思いラトレイアを見やった。<br>「ん？ちがうよ？これから精霊の森にいくの」<br>「精霊の森ですか？街から離れると皆さん心配しますよ？」<br>「そりぇはそうなんだけど…精霊の森はマナに満ちているから」<br>マナの消費を最小限に留めて元に戻りたいからと話しながら歩き出したラトレイアの提案に納得したヴァルローダは<br>「分かりました。あまり長時間外出するのも皆さんに悪いので、空を渡りましょう。しっかり捕まって下さい」<br>そう言うとラトレイアを抱きかかえ、途中眼下に見える町には目もくれず、高高度を急行軍で精霊の森を目指した。<br>精霊の森へ辿り着いたラトレイア達は森の最奥にある大樹のもとへやってくると、ルーンボトルの効果解除作業に取り掛かった。</p>



<p>　パナシーアボトルを使って幾つか自分で使える解呪を試してみたものの、どれも効果を解除するにはいたらず、買ってきたパナシーアボトルも底をついてしまっていた。</p>



<p>「…うう。ましゃかここまで手強いとは…」<br>これまでの解除実験で多少マナを消費したラトレイアは少しぐったりとした様子で大樹の根元に寄り添った。</p>



<p>　ヴァルローダはパナシーアボトルを買い足しに近くの村まで出掛けている。</p>



<p>さすがに万策尽きたかと思うとラトレイアは妙に寂しくなって、大樹の根元に横になると目を閉じた。<br>「…このまま元にもどりぇなかったらどうしよう…」<br>不安が脳裏をよぎり、ラトレイアは涙が止まらなかった。<br>「…うっ…ひっく…」<br>ヴァルローダが戻って来るまでには気を落ち着かせようと試みるも、一度涙をこぼしてしまうとなかなか感情をコントロール出来なくなり、一向に涙が止まらなかった。</p>



<p>そこへ…<br>「そこに居るのは誰だ」<br>聞き覚えのある声を聞き、ラトレイアは起きあがると声の主の方を振り返った。</p>



<p>「…ダオスさま…？」<br>どうしてここに？とラトレイアは驚きを隠せないでいた。<br>「…君は…ラトレイアか？」<br>ダオスも、子供姿のラトレイアに驚きを隠せないでいた。</p>



<p>「はい…」<br>「その姿は一体どうしたのだ？」<br>ダオスは、泣いていた相手がラトレイアと分かるとあたりにしいていた警戒を解くとラトレイアを抱きかかえて大樹の根元に腰掛けた。<br>「う…えと…ちゅいうっかりルーンボトルをかぶってしまって…」<br>ラトレイアはこの姿に至った経緯をかいつまんで説明した。<br>「そりぇで、解呪をここりょみたんですが…<br>どりぇもうまくいかなくて…」<br>この世界の法則にのっとった解呪でないと効果がないみたいで、これからどうしようかと…と話し終えるとラトレイアは悲しくなって俯いてしまった。</p>



<p>　ラトレイアの目尻に涙が滲むと、ダオスは優しく涙をぬぐい取り、幼子をあやすかのように優しく頭を撫でた。<br>涙をぬぐわれたことに驚いたラトレイアは顔を上げ、目をしばたたかせた。<br>「そういえば、ダオスさまはなじぇここに？」<br>「大樹の元で奇妙な力を感じたのでな。何かあったのかと思い、こうして駆け付けたのだ」<br>そして、駆け付けてみると、大樹の元で泣いている君を見つけたのだ…<br>そう言ってダオスは優しくラトレイアの頭を撫でた。<br>「奇妙な力…。すみましぇん、それはたぶんわたちの解呪呪文ですね」<br>そう言うと申し訳なさそうにラトレイアは俯いた。<br>「気に病む事など無い。<br>こうして、君の非常事態にそばにいる事が出来たのだから…」<br>そう言い、ダオスはラトレイアを安心させるかのように抱きしめ、優しく背中をさすった。</p>



<p>するとそこに<br>「…マスター！遅くなってすみません」<br>ガサガサと茂みを掻き分けてヴァルローダが戻って来た。<br>「近くの村で朗報を掴みましたよ！<br>…あれ、ダオス様？」<br>村に買い出しに行っていたヴァルローダは、目前にダオスが居ることに驚いて目を瞬かせた。<br>「あ、ヴァルおかえり！」<br>ラトレイアはヴァルローダのもとに駆け寄ると労いの言葉をかけ、ヴァルローダはそれに応えると、疑問に思った事を口にした。<br>「えとね、そりぇは」<br>「私の事は気にせずとも良い。ところで、朗報とは？」<br>ラトレイアが状況説明をしようと口を開いた直後、ダオスはそれを遮るようにヴァルローダに問うた。</p>



<p>ラトレイアの子供姿を目の当たりにしているダオスを見て、詳しい説明はすんでいるのだろうと判断しヴァルローダは話を進める事にした。</p>



<p>「はい、実は近くの村でパナシーアボトルを買い足しに行っている途中、状態異常の治療に詳しい方と出会いまして」<br>そう言うとヴァルローダはメモ紙を取り出した。<br>「その方に聞いた所によると、ルーンボトルを誤ってかぶってしまった時の対処法があるらしく、この紙に書いてもらってきました。<br>これでマスターも元の姿に戻れる筈です！」<br>「そうなの？」<br>ラトレイアは表情を明るくし、ありがとうとお礼を述べると早速メモ紙を受け取った。</p>



<p>「…ふむふむ。なりゅほど…。この呪文を唱えりぇば解呪出来りゅのね」<br>―ルーンボトルはもともと、1本3500ガルドもする割と高価な魔法アイテム。予備もあまり蓄えられない点を考慮すると、ルーンボトルをもう一度かぶるよりもこの方法が効果的である─</p>



<p>と、そのメモ紙には書かれていた。<br>「うん、わかった。早速やってみりゅ」<br>そう言うとラトレイアは、独自の解呪で消耗した魔力を回復させるため回復薬のオレンジグミを1個食べたあと、メモに書かれていた法則にのっとり呪文を唱えた。</p>



<p>「聖なる癒やしの御手よ…母なる大地の息吹きよ…<br>　その尊き力、呪に戒められし子らに祝福を与えよ…</p>



<p>　ディスペル！」<br>大地に祈りを捧げ、呪いを唱え力ある言葉を皮切りに癒やしの術が発動した。</p>



<p>すると、呪いのかかっていたラトレイアに癒やしの力が作用し、『ポンッ』と、ルーンボトルで変化した時のような煙が立ち込めた。</p>



<p>そして、煙が収まりそこに姿を現したのは…<br>「…やっと元に戻れた…！」<br>一度で術を成功させた、元の姿に戻ったラトレイアであった。</p>



<p>「やりましたね！マスター！」<br>ようやく元に戻れたラトレイアを見てヴァルローダは安堵のため息をついた。<br>「これで、変な輩に狙われないですみますね」<br>変な奴に浚われでもしないかとヒヤヒヤしましたよ─と一人ごちるヴァルローダにダオスは</p>



<p>──至極最もな事だな。<br>心の中でヴァルローダに同意した。</p>



<p>「…元に戻れて良かったな…ラトレイア」<br>ダオスはラトレイアを優しく見つめ、労いの言葉をかけた。<br>「はい！お騒がせして本当に申し訳ありません」<br>ラトレイアはダオスの心からの恩情に深く感謝し、先ほどまでの無礼を詫びた。<br>「謝ることなど何も無い。こうして君の無事を確認出来たのだから」<br>そう言うとダオスはラトレイアの手を引き抱きしめると、ヴァルローダには聞き取れないくらいの小さな声で<br>「普段は見ることの出来ない君の姿も見ることができた」<br>愛おしむかのようにラトレイアの耳元で囁いた。</p>



<p>「！」<br>耳元で囁かれたラトレイアは恥ずかしさのあまり頬を赤らめた。<br>その表情はヴァルローダの位置からは伺い知ることが出来なかったが、２人の様子を見て何かを察し、気を利かせて２人に背を向けた。</p>



<p>しばらくしてダオスは腕を解くと<br>「このまま共に帰ろう…と言ったら君は困るだろうか」<br>名残惜しそうにラトレイアを見つめた。<br>「え？」<br>「近いうちに、戦争が起こるやもしれぬ。<br>　戦渦に巻き込まれぬうちに…」<br>ダオスはラトレイアの身を案じ、共に城へ戻らぬかと手を差し伸べた。<br>ラトレイアはダオスの心遣いがとても嬉しかったが、少し考えたのち<br>「勿体無いお言葉ありがとうございます。<br>　ですが、今しばらく旅を続けさせて頂いても宜しいでしょうか？」<br>旅の目的をまだ果たしていないため、もう少し続けたいとダオスに申し出た。<br>「ほう…？」<br>ダオスはその言葉に興味を持ち、話の続きを促した。<br>「実は、大樹以外にも気になる事がありまして…。<br>マナ枯渇を防ぐ一手に繋がればと思いまして…。<br>それを調べとうございます。」<br>調査が終わり次第すぐ戻りますので…<br>申し訳なさそうに語り、お許し願えませんでしょうか？とラトレイアは深々と頭を下げた。<br>「もちろん、戦渦には十分気を付けますので」<br>ヴァルローダも深々と頭を下げた。<br>「…君にそこまで頼まれたのであっては、このまま連れ帰る訳にもいくまい。<br>分かった。…くれぐれも気を付けて…」<br>ダオスはラトレイアの願いを聞き入れると優しく微笑んだ。<br>「ありがとうございます…」<br>ラトレイアは嬉しくなってダオスに感謝の意を込めてひざまずいて頭をたれた。<br>「ラトレイア…」<br>ひざまずいたラトレイアを呼び、ダオスは立ち上がるようにと手を差し伸べた。<br>「はい」<br>ラトレイアはダオスの手を取ると立ち上がり、２人はしばらくの間、互いの無事を願い大樹に寄り添った。</p>



<p>「クレス！ラトレイアいた？」<br>──ベネツィア。<br>日も暮れかれこれ３時間は経ち、いくらなんでも戻って来るのが遅いだろうと、クレス・クラース・アーチェはラトレイア達を探していた。<br>ミントは、入れ違いになった時を考慮して宿で待機している。<br>「いや、港側には居なかったよ」<br>「ああ、道具屋側にも居なかった」<br>港と道具屋・商店側を探していたクレスとクラースは戻ってくるなりそう答えた。<br>「んもう、どこに行ったんだろう。広場側にも居ないし…」<br>アーチェは、あのとき強く止めていれば…とはがみした。<br>すると<br>「………おーい！」<br>遠くで声がした。<br>「！」<br>声のする方を振り向けば、街の入り口から元の姿に戻れた状態のラトレイア達が駆けて来るのが見えたのだった。<br>「ラトレイア！」<br>アーチェは息急き切ってラトレイア達を迎えた。<br>「もーっ！どこに行ってたの？スッゴく心配したんだからね！」<br>バカバカバカ！と、ラトレイアに抱きつくとポカポカと胸元を軽く叩いた。<br>「す、すみません…。ルーンボトルの効果を解呪するのに時間がかかってしまって…」<br>ラトレイアは心底申し訳なさそうに皆に謝った。</p>



<p>「…解呪出来たのか…」<br>クラースは感心するようにラトレイア達を見た。<br>「はい、運良く状態異常の治療に詳しい方に出会いまして」<br>人目につかない場所で教わった通りに解呪したら解けました、とヴァルローダは報告した。</p>



<p>「やれやれ…とにかく、一件落着といった所か」<br>そう言うとクラースは「宿に戻るぞ」と皆を促し、みんな揃ってミントの待つ宿へと戻って行った。</p>



<p>「今日は凄いハロウィンだったね」<br>「はい、まるで聖霊や魔女の悪戯にでもかかった気分でした」<br>悪戯は懲り懲りです…</p>



<p>宿に戻る道すがら、アーチェとラトレイアはそんな会話を交わしたのだった。</p>
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		<title>─sleeplessness syndrome─</title>
		<link>https://www.shinen2014.website/wp/2023/11/12/sleeplessness-syndrome/</link>
		
		<dc:creator><![CDATA[二階堂悠理]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 12 Nov 2023 14:46:35 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[常しえの思い]]></category>
		<category><![CDATA[短編]]></category>
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					<description><![CDATA[いつもの悪夢にさいなまれる。夢魔に魅入られたかのように。 それは、毎夜のこと。 ─sleeplessness syndrome─ 「……う…………う…」真夜中。 は悪夢にうなされていた。「う…フェアガンゲンハイトが…」次 [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>いつもの悪夢にさいなまれる。<br>夢魔に魅入られたかのように。</p>



<p>それは、毎夜のこと。</p>



<p class="has-text-align-center">─sleeplessness syndrome─</p>



<p>「……う…………う…」<br>真夜中。</p>



<p>ラトレイアは悪夢にうなされていた。<br>「う…フェアガンゲンハイトが…」<br>次第にラトレイアの寝顔に苦悶の表情がにじみ、そして…</p>



<p>「…！……はあ…まただ」<br>肩で荒く息をしながら、ラトレイアは目を覚ました。</p>



<p>このところ、毎晩同じ悪夢をみる。<br>「マスター…大丈夫ですか？もう1週間はうなされているみたいですが…」<br>隣室にいるヴァルローダは、ラトレイアの気配に異変を感じ、様子を伺いに来ていた。</p>



<p>「あ…。ごめんね、ヴァル。起こしちゃった？」<br>「いえ、私よりマスターの方が心配です。<br>マスター、最近ちゃんと眠れてないんじゃないですか？」</p>



<p>鋭い問いに一瞬口ごもったラトレイアは観念したかのように<br>「…あの時の光景の夢を見てね…」<br>悪夢の内容でもある原因を口にした。</p>



<p>「…そうですか…。あの時の…」<br>ヴァルローダは、あの時…フェアガンゲンハイトでの悪夢のような出来事を思い出し口を閉ざした。</p>



<p>「寝ても、同じ夢ばかり見てね…。<br>滅びの時まで…夢に出る…」<br>ラトレイアは、深くため息をついた。</p>



<p>「それでもマスター、ゆっくりと休んで下さいね？」<br>そう言ってヴァルローダは、できたてのカモミールティーをラトレイアに手渡し、部屋へと戻っていった。</p>



<p>「…休んで下さい…か…」<br>あまりヴァルローダに心配かけるわけにもいかない。</p>



<p>カモミールティーを飲み干し、ラトレイアは眠りについた。</p>



<p>次の日の夜。</p>



<p>ラトレイアはこの日も同じ悪夢を見た。</p>



<p>「眠れない…」<br>部屋を抜け出しラトレイアは城のエントランスホール付近まで散歩に出掛けた。</p>



<p>真夜中のため、住人に迷惑をかけないように物音をたてずにひたすら歩き、気がつけばエントランスに辿り着いていた。</p>



<p>外に出て、星を眺めるためラトレイアは庭に腰を下ろした。</p>



<p>「いつも思うけど…綺麗な夜空…」<br>しばらくそうして夜空を見上げていると<br>「─―眠らないのか…？」<br>と声をかけられた。<br>驚いて振り返ると、エントランスにダオスがいた。</p>



<p>「…ダオス様…。<br>すみません、起こしてしまいましたか？」</p>



<p>物音をたてないように気を付けていたのにもかかわらず、誰かを起こしてしまった。しかもそれはダオスだった。</p>



<p>ラトレイアは申し訳なさそうに頭を下げた。<br>「良い。気に病む事はない」<br>そう言うや否やダオスは<br>「夜は冷える」<br>と、ラトレイアにマントを被せながら隣に腰掛けた。</p>



<p>「ここのところ、あまり眠っていないのではないか？」<br>不意に、ダオスが口を開いた。</p>



<p>「…そう見えますか？」<br>「ああ」</p>



<p>――ただでさえ大樹の視察などで何かと忙しいダオス様にお気遣いいただくなんて…。</p>



<p>ラトレイアは至らない自分に落ち込んだ。</p>



<p>「…そうですね…。ここ1週間ほど、良く眠れていないのは事実です。<br>…ご心配をおかけして申し訳ありません…」<br>ダオスは黙然としたまま、ラトレイアの話を聞いている。</p>



<p>「…夢を…見るんです」<br>「…夢？」<br>「はい。毎晩同じ夢ばかり。故郷の夢を…」<br>「……」<br>故郷と聞いて、ダオスは自身の故郷、デリス＝カーラーンを思い浮かべた。</p>



<p>　滅びの時が近い故郷、デリス＝カーラーン。<br>大いなる実りを待ちわびている、10億の民。</p>



<p>惑星転移の秘術を使い、様々な世界を渡り歩いた。<br>最後に辿り着いたこの世界でようやく大樹カーラーンと同様の存在に辿り着いたは良いが、ミッドガルズの推し進める魔科学製造実験のあおりをくらい、大樹は死にかけている。<br>私は、大いなる実りを故郷に持ち帰る事が出来るのだろうか。</p>



<p>暗愁がダオスの心を翳って行った。</p>



<p>「実は…私の故郷は、すでに滅んでいるんです」<br>訥訥とラトレイアは語りだした。<br>「フェアガンゲンハイトは、世界の荒廃が元で…。<br>人々は手に余る力に溺れ、滅んだのです。<br>今のこの世界の状況は、故郷と若干似ている感じがします」<br>「……」<br>「だから…なんでしょうね…。故郷が滅んだ時の情景を毎晩夢に見るのは」<br>そう言い終えてラトレイアは膝を抱え、顔をうずめた。</p>



<p>「すまない。古傷をえぐるような話を」<br>「い、いえ！私が勝手に話し出しただけですのでお気になさらないで下さい！」<br>ラトレイアはあわてて顔を上げた。<br>「でも、聞いていただいたおかげで、気持ちが軽くなりました。ありがとうございます」<br>そう言ってラトレイアは儚げに微笑んだ。<br>「――あまり無理はするな」<br>ダオスは、なぐさめるかのようにラトレイアを優しく抱きしめ、指で彼女の長い髪を梳ずった。</p>



<p>　しばらく無言のまま、髪を梳いていたダオスだったが、気持ちも落ち着いたのかラトレイアが自分にもたれかかってきた。<br>どうやら眠りに落ちたようだ。</p>



<p>ダオスはラトレイアを起こさないように気を付けながら抱き上げ、庭をあとにした。</p>



<p>客間に辿り着いたダオスはラトレイアをベッドに運ぶ。<br>「…おやすみ。良い夢を…」<br>ラトレイアが起きないようにそっと呟き、手を握り口付けを落とすと部屋をあとにした。</p>



<p>　自室へと戻る道すがら<br>「…悪夢…か」<br>故郷の悪夢をよく見るというラトレイアに自分を重ね、ダオスは独白をこぼした。</p>



<p>　翌朝。</p>



<p>朝日の眩しさに目を覚ましたラトレイアは、いつの間にか部屋に戻っているのに気付き、おおいに慌てたのは言うまでもなかった。</p>



<p>携帯サイト初出：2008年10月3日　了.</p>
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